1.外国人雇用の助成金とは?
助成金とは、一定の条件を満たす企業に対して国や自治体が支給するお金のことです。返済の必要はありません(補助金との違いは特になく、ここでは同じ意味で扱います)。
外国人を雇用するときには、日本語研修の実施や就業規則の多言語化、生活サポートなど、追加のコストや取り組みが必要になる場合があります。そうした企業の負担を減らし、外国人労働者が働きやすい職場づくりや長く定着できる環境整備を促進するのが外国人雇用に関する助成金制度です。
助成金は国(厚生労働省)が全国で実施しているものと、都道府県や市区町村が独自に実施しているものがあります。例えば、厚生労働省の「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備コース)」は、外国人社員のために就業規則の多言語対応や相談体制整備などを行った企業に助成金が支給される国の制度です。
一方、本記事で取り上げる東京都・神奈川県・埼玉県では、各地域の課題や産業に合わせて特色ある助成制度が設けられています。以下では、それぞれの自治体ごとに主な助成金制度の概要を紹介し、最後に企業の活用事例も見てみます。
東京都の外国人雇用に関する助成金制度
東京都は全国でも外国人労働者が特に多い地域です。2022年10月末時点で、東京都だけで全外国人労働者の約27.4%(およそ50万人)を雇用しており、外国人なしでは成り立たない企業も増えています。
こうした状況をふまえ、東京都は中小企業の外国人材受け入れや定着を支援するための助成制度を実施しています。主要なものは以下の2つです。
• 中小企業の外国人従業員に対する研修等支援助成金(東京都産業労働局)
• 外国人介護従事者受入れ環境整備等事業補助(東京都福祉保健局)※令和4年度で一旦終了
それぞれ詳しく見てみましょう。
中小企業の外国人従業員研修等支援助成金(東京都)
これは、東京都内の中小企業が外国人従業員向けに日本語教育や研修を実施する費用の一部を助成する制度です。目的は、外国人社員の日本語力やビジネスマナーを向上させて職場への定着を促すことです。
具体的には、以下のような研修が対象になります。
• 日本語教育:日本語教師による授業や日本語学校の受講
• 教材作成:職場で使う日本語教材の作成(日本語教師が作成したもの)
• ビジネスマナー研修:敬語の使い方や働く上でのマナー講習
• 異文化理解研修:日本の職場文化や習慣の違いについての講習
※ビジネスマナー研修と異文化理解研修は、日本語教育と組み合わせて実施する必要があります。
この助成金を申請できるのは、都内に本社または事業所がある中小企業で、対象となる在留資格の外国人を雇用している企業です。研修を受ける外国人従業員は、日本語能力試験でおおむねN2以下のレベルが目安とされています。
助成内容は研修にかかった費用の1/2(50%)で、上限額は標準プランで25万円、短時間プランで15万円ですmetro.tokyo.lg.jp。たとえば、会社が外国人社員のために日本語学校に通わせて年間50万円の費用を負担した場合、25万円が助成される計算です。
助成金の名称 | 対象企業・外国人 | 助成内容 | 募集期間 |
---|---|---|---|
中小企業の外国人従業員 研修等支援助成金 (一般コース) |
都内中小企業(対象在留資格の外国人を雇用) ※外国人の日本語レベル概ねN2以下 |
研修費の1/2を助成 ※上限25万円(標準) 上限15万円(短時間) |
毎年度募集 (令和7年度は 2025年4月3日~ 2026年1月15日) |
中小企業の外国人従業員 研修等支援助成金 (ウクライナ避難民コース) |
都内中堅・中小企業 (ウクライナ避難民を雇用) |
研修費の10/10を助成 ※上限50万円(標準) 上限30万円(短時間) |
毎年度募集 (令和7年度も 上記期間で実施) |
東京都の研修助成金には、上記の一般コースのほか、ウクライナ避難民を雇用している企業向けの特別コースがありますmetro.tokyo.lg.jp。ウクライナ避難民コースでは助成率が100%(全額助成)に拡大され、上限額も標準プランで50万円、短時間プランで30万円と高く設定されています。
これは、近年のウクライナ情勢を受けて避難民の就労支援を充実させる東京都の取り組みです。
申請の受付期間は毎年度決まっており、令和7年度(2025年度)は2025年4月3日~2026年1月15日となっています。助成対象となる研修の実施期間は交付決定日から翌年3月31日までですmetro.tokyo.lg.jp。申請方法や詳細な要件については、東京都の公式サイト「TOKYOはたらくネット」で案内されています。
外国人介護従事者受入れ環境整備等事業(東京都・※終了)
こちらは、東京都内の介護施設等が外国人の介護職員を受け入れる際の環境整備費用を助成する制度でした。
例えば、介護現場で外国人向けのマニュアルを多言語で作成したり、通訳機器を導入したり、日本語学習支援を行ったりする取り組みに対し、費用の一部が補助されていました。補助率は1/2以内、1施設あたりの上限額は30万円(補助額は最大20万円)とされていました。
また、住宅(社宅)の整備や生活支援にかかった費用についても補助対象となり、外国人介護職員1人につき家賃や生活必需品購入費の一部が支給されました。
この制度は東京都福祉保健局が実施していましたが、令和4年度で受付終了(予算満了)となっています。東京都では介護分野の外国人材受入れを国と連携して推進してきましたが、現在は国の「特定技能」制度などを活用する形にシフトしています。
ただし、東京都内の介護施設で外国人を雇用する際には、国の助成金(例えば前述の職場環境整備助成コース)や他の支援策が利用できる場合があります。必要に応じて東京都や国の相談窓口に問い合わせてみましょう。
3.神奈川県の外国人雇用に関する助成金制度
神奈川県も、東京に次いで外国人労働者が多い地域です。県内の外国人労働者数は約10万人規模と推定され、全国でも上位に入ります(2022年時点で全国の約5~6%程度)。
特に製造業の集積や観光地(横浜・湘南など)を抱える神奈川県では、多様な外国人材の活躍が期待されています。そのため、県や市町村レベルで独自の助成・支援制度が整備されています。
代表的なものを挙げると以下のとおりです。
• 多様な人材が活躍できる職場環境整備支援奨励金(神奈川県:外国人労働者コース 等)
• 外国人介護人材受入れ施設等環境整備事業補助金(神奈川県)
• インターンシップ奨励金(神奈川県産業振興センター)
• 綾瀬市中小企業外国人高度人材雇用促進奨励金(綾瀬市)
• 藤沢市外国人介護職員受入支援事業補助金(藤沢市)
神奈川県は、県単位の制度に加えて市町村レベルでも先進的な取り組みが見られます。それぞれ内容を確認していきましょう。
多様な人材が活躍できる職場環境整備支援奨励金(神奈川県)
これは神奈川県が実施した、中小企業等の職場における多様な人材(外国人、女性、高齢者など)が働きやすい環境づくりを支援する奨励金です。その中に「外国人労働者の職場環境整備コース」が設けられていました。
このコースでは、外国人従業員の受け入れ環境を整える取り組み(就業規則の多言語化や相談窓口の整備など)を行った県内企業に対し、一定額の奨励金が交付されました。
奨励金の額は、実施内容に応じて20万円または40万円です。具体的には、(1)県が主催する外国人受入れセミナーの受講と就業規則等の多言語化を行った場合に20万円、(2)さらに追加の取組(外国人担当者の選任や社内表示の多言語化等)を実施した場合に40万円が支給されました。
助成率で言えば、対象経費の1/2以内(上限額20万または40万)というイメージです。
制度名 | 対象企業 | 主な取組内容 | 奨励金額 | 備考 |
---|---|---|---|---|
職場環境整備支援奨励金 (外国人労働者コース) |
県内の中小企業 等 | 就業規則・社内規程の多言語化、 相談窓口の設置、外国人担当者の配置、 社内マニュアルや表示の多言語化 等 |
20万円 または 40万円 (取組内容に応じて加算) |
2024年度実施(予算上限に達し受付終了) |
外国人介護人材受入れ施設等環境整備事業補助金(神奈川県)
神奈川県は介護分野における外国人材の受入れ支援にも力を入れています。その一環が「外国人介護人材受入れ施設等環境整備事業費補助金」です。これは県内の介護施設・事業所が、外国人の介護職員を受け入れて働き続けてもらうための環境整備(主にコミュニケーション支援や生活支援)にかかった費用を補助する制度です。
補助対象となる取り組みには例えば、外国人介護職員との円滑なコミュニケーションを促進するための通訳・翻訳費、多言語翻訳機の購入費、日本語教材の整備費、異文化理解研修の実施費などが含まれますyolo-work.com。また、外国人介護職員の住居確保生活必需品購入に要した費用(社宅の家賃や生活用品の支給等)も補助の対象でした。
補助率は原則として対象経費の2/3以内で、1施設あたりの補助上限額は20万円と定められていました。つまり、施設が例えば30万円の経費を使って外国人職員向けの日本語研修や翻訳機を導入した場合、実支出額と補助基準額(30万円)の低い方の金額の2/3、最大20万円が県から補助されます。
補助対象となる外国人介護職員の範囲は、留学生・技能実習生・特定技能外国人など幅広く、介護福祉士を目指す人材を想定していました。補助対象となるサービス種別も介護保険施設や居宅サービス事業所など多岐にわたります。
この補助金は令和5年度まで実施され、介護現場で多数の利用実績がありました。
例えば、県内の特別養護老人ホームでは本補助金を活用して外国人技能実習生向けに日本語教師を招いた研修を行い、現場定着率の向上につながったケースがあります(※施設名非公開、神奈川県資料より)。
介護分野では外国人材の確保が全国的な課題であり、神奈川県でもこうした支援策を通じて外国人介護士の定着促進を図っています。
インターンシップ奨励金(かながわ外国人材活用支援ステーション)
神奈川県は将来の高度外国人材の確保に向けて、留学生等のインターンシップ支援も行っています。県の関連機関である「かながわ外国人材活用支援ステーション」では、海外の大学生などを一定期間受け入れてインターンシップを実施した企業に対し、経費の一部を奨励金として交付しています。
具体的には、企業が負担した宿泊費や通訳費等について、1人あたり最大20万円が支給されます。この制度により、中小企業でも海外人材の受け入れにチャレンジしやすくなり、将来的な採用につなげる狙いがあります。
インターンシップ奨励金の利用例として、県内製造業のある中小企業ではベトナムの理工系大学生を受け入れ、社内公用語の英語化や受入担当者の配置など手厚いサポートを行いました。
その結果、奨励金を活用しつつ学生に実践的な就業体験を提供し、後日その学生を新卒採用することに成功しています(神奈川産業振興センター発表)。このように、奨励金制度は企業と外国人学生の双方にメリットをもたらしています。
綾瀬市・藤沢市の外国人雇用支援制度(市町村の事例)
神奈川県内の市町村でも、独自の外国人雇用支援策があります。ここでは例として綾瀬市と藤沢市の取り組みを紹介します。
• 綾瀬市中小企業外国人高度人材雇用促進奨励金:綾瀬市内の製造業の中小企業が、専門知識を持つ外国人(在留資格「技術・人文知識・国際業務」等の高度人材)を正社員として雇用し、1年以上定着させた場合に支給される奨励金です。交付額は1人あたり72万円で、1社につき年度ごとに最大3人まで申請可能です。令和4年4月1日以降に採用した外国人が対象となり、2025年度(令和6年度)は翌2026年2月末まで申請を受け付けています。この奨励金は、外国人技術者の採用・定着に積極的な製造業企業を支援する全国でも珍しい取り組みです。実際に綾瀬市内のある機械メーカーでは、本奨励金を活用してインド出身のエンジニアを採用し、社内研修や住居支援を行いながら戦力化しています(同社は奨励金72万円の交付を受けました)。
• 藤沢市外国人介護職員受入支援事業補助金:藤沢市内の介護事業所が外国人の介護職員を雇用する際に、住居費(家賃)や生活必需品の購入費の一部を補助する制度です。対象となる外国人は留学生出身の介護職や技能実習生、特定技能外国人、EPA介護福祉士候補者など幅広く含まれます。補助額は、例えば住居の家賃について月額数万円程度、生活必需品費について一定額の定額補助となっており、事業所の経済的負担を軽減します。藤沢市内の介護施設では、この補助金を活用してフィリピン人介護職員の住宅費用を支援し、安心して働けるようサポートしています。こうした取り組みにより、「外国人職員が長く働いてくれて助かっている」と施設長も効果を実感しています(藤沢市発表の事例より)。
綾瀬市や藤沢市以外にも、神奈川県内では横浜市や川崎市が多文化共生の観点から外国人住民・労働者への支援策を行っています。企業単位の助成金ではありませんが、自治体の日本語教室や相談窓口の設置など、間接的に外国人雇用を下支えする施策も活用できます。自社の所在地の市区町村がどんな支援を提供しているか、一度確認してみるとよいでしょう。
4.埼玉県の外国人雇用に関する助成金制度
埼玉県でも、中小企業の外国人雇用を後押しする制度が整備されています。特に力を入れているのが、介護分野における外国人材の定着支援です。埼玉県内の介護施設等では外国人の技能実習生や留学生アルバイト、特定技能介護の受け入れが進んでおり、将来的に介護福祉士資格を取得して長く働いてもらうことが期待されています。
そのための支援策として、埼玉県は以下の補助制度を実施しています。
• 外国人介護職員が長く働ける、魅力ある埼玉介護の促進補助金(埼玉県 福祉部)
外国人介護職員が長く働ける、魅力ある埼玉介護の促進補助金
名前が長いですが、その名のとおり「外国人介護職員が資格を取って長く活躍できる環境整備」を目的とした補助金です。埼玉県内の介護施設・事業所で、外国人の介護職員(留学生・技能実習生・特定技能など介護福祉士を目指す人)を雇用し、資格取得支援や職場環境整備に取り組んだ場合に補助が受けられます。
補助の対象となる経費は多岐にわたります。主なものを挙げると:
• 介護福祉士資格取得の支援費:教材の購入費、外部講習の受講料、講師を招いての社内研修費等。
• コミュニケーション促進費:介護手順書やマニュアルの作成・翻訳費、多言語翻訳機の購入費、日本語学習支援費、異文化理解研修の費用等。
• 日本語学校の学費補助:外国人留学生の日本語学校等の学費の一部。
• 地域生活費(居住費)補助:技能実習生や特定技能外国人のために事業所が負担した社宅の家賃や寮費等の一部。
補助率・補助額は経費の種類によって異なりますが、大まかには以下のように定められています(1事業所あたりの上限あり)。
補助対象経費 | 対象となる外国人 | 補助率・補助額 | 備考 |
---|---|---|---|
資格取得支援費 コミュニケーション促進費 |
留学生・技能実習生・ 特定技能外国人 |
支出額の2/3 ※1事業所あたり 上限30万円(補助額上限20万円) |
2種類まとめて1枠扱い。 |
日本語学校の学費 | 留学生 | 支出額の1/3 ※1人あたり上限60万円 |
介護福祉士を 目指す留学生の 学費支援。 |
地域生活費 (居住費等) |
技能実習生 特定技能外国人 |
支出額の1/3 ※1人あたり月上限3万円 |
事業所が負担した 家賃等の補助。 |
5.まとめ
以上のように、助成金制度は企業の外国人雇用を力強く後押ししてくれます。しかし、最も大切なのは企業自身が「外国人も働きやすい職場づくりをする」という姿勢です。助成金を上手に活用しながら、日本人社員と外国人社員がお互いに力を発揮できる環境を整備することが、結果的に人材定着や生産性向上につながります。
東京都・神奈川県・埼玉県には紹介したような制度が揃っていますので、自社の状況に合わせてぜひ活用を検討してみてください。制度の詳細や最新情報は各自治体の公式ホームページ等で公開されています。不明点があれば窓口に問い合わせ、必要な支援を受けながら外国人雇用を成功させましょう。

外国人整備士ブログのWeb制作、編集をしています。
技能実習生や自動車整備士成に関連したお役立ち情報、最新情報などを発信していきます。