1.はじめに
技能実習生を受け入れる企業(実習実施者)は、「計画的な技能・知識の移転」と「実習生の保護」を両立させる役割があります。
具体的には、受け入れ前から研修計画を立て、実習期間中に計画どおりに指導します。
また、実習生が安心して働けるように住居や生活環境の整備も求められます。
例えば、企業(または監理団体)は適切な宿泊施設を用意する義務があり、受け入れ対象の技能実習生全員分の「適切な宿泊施設」を確保しなければなりません。
このように、企業は技能実習法などの法令に従い、実習生に対して安全で適切な労働・生活環境を提供しつつ、日本での技能習得を支援する必要があります。
本記事では、受入企業が行うべきトレーニングとサポートについて、具体的に解説します。
2.受入企業で求められるトレーニング
(1) 業務のトレーニング
受け入れ企業は、自動車整備に必要な専門技術を段階的に教える必要があります。
技能実習生は入国当初から段階別に指導を受け、まずは法定点検(ブレーキや灯火類など)の補助や、タイヤ交換・オイル交換など軽作業の経験を積みます。
例えば、実習第一号段階では車の定期点検作業を学び、自分で車の点検項目を判断できることを目標とします。その後、第二号段階ではより高度な分解整備作業(エンジン分解など)も加わります。
このような段階的指導により、実習生は実際の整備業務に必要な技術を段階的に習得していきます。
ただし、中には職業学校で訓練を積む実習生もおり、すでに基礎的な技術を備えている実習生もいます。
実習段階 | トレーニング内容(例) |
---|---|
技能実習1号(1年目) | 法定点検補助(ブレーキ・灯火など)、タイヤ交換・オイル交換などの基本整備 |
技能実習2号(2~3年目) | 第一段階内容に加え、エンジン分解・整備作業など高度な分解整備も実施 |
(2) 日本語のトレーニング(実習前・実習中)
実習生が現場で安全に作業できるように、日本語教育も重要です。
企業や監理団体は、入国前・入国後に日本語学習を支援します。例えば、入国前講習(送り出し国で実施)では日本語が中心で、簡単な整備用語(機械・工具の名前や用途)を学ぶ機会もあります。
入国後は、社内で定期的な日本語教室やeラーニングを導入する企業もあります。そのような教育を行うことで、実習生が日本語能力検定2級などに合格するケースもあります。
また、技能実習機構の指針では、実習3年目(第二号修了時)までに日本語能力試験N4相当程度の日本語理解を目指すよう推奨されていますし、今後育成就労制度へ移行した場合には、日本語能力試験N4への合格が必要となります。
定期的に日本語テストを行い、達成度を確認する取り組みが重要です。
日本語教育の例 | 説明 |
---|---|
社内日本語教室・eラーニング | 社内で日本語講師を配置したりe教材を活用。ある企業では、教材と教師で実習生のN2合格を実現したケースもある。 |
定期テスト・目標設定 | 月1回の日本語テストや定期試験で学習成果を確認し、N4レベル合格など具体目標を設定する。 |
3.受入企業で求められるサポート
(1) 住居のサポート
受け入れ企業は、実習生の住居を十分な広さ・清潔さで用意しなければなりません。
法律では企業(または監理団体)が「適切な宿泊施設」を確保することが定められており、具体的には以下の住居基準があります。
① 適切な宿泊施設の確保
以下を避けた安全な住居を確保する必要があります。
- 火災の危険がある
- 有害な作業場から近い
- 騒音や振動が多い
- 雪崩や土砂崩壊の恐れがある
- 湿潤な場所
- 出水時浸水の恐れがある
- 汚染の恐れがある
② 部屋の広さ
以下の部屋の広さが必要となります。
- 1人につき4.5㎡以上(約3帖)
- 活動時間が異なる場合、寝室は別
③ 部屋の設備
以下の部屋の設備が必要となります。
- 個人別の収納スペース
- 部屋の面積7分の1以上の採光できる窓
- 必要な冷房、暖房設備
④ 住居の設備
以下の設備が必要となります。
- トイレ
- 洗面所
- 浴場(脱衣所含む)
- 洗濯場
- 食堂・炊事場
- 適切な消火設備
例えばアパートや寮を借りる場合、通常の労働者用寮(寄宿舎)と同様に、居室の広さや避難経路の確保など法令を守らねばなりません。
企業は実習生全員が快適に住めるよう、家具家電付きの部屋を用意したり、家賃や敷金の補助を行う場合もあります。
(2) 生活サポート(銀行口座、買い物支援など)
日常生活を円滑にするために、企業は生活面の支援も行います。
例えば、銀行口座の開設支援が挙げられます。在留カードを持つ外国人は銀行口座を開設できますが、申請時に在留カードの提示が必要で。ゆうちょ銀行などは外国語対応の口座開設案内を用意しているので、企業が手続きの案内をすると実習生は安心です。
また、実習生が困らないように買い物支援も大切です。
具体的には、最寄りのスーパーやコンビニの場所、公共交通機関の利用方法を説明したり、一緒に買い物に行くなどのサポートがあります。
生活に必要な物品(布団や日用品など)の初期購入を企業が手伝うケースもあります。こうした支援を通じて、実習生が日本での生活に早く慣れるように助けます。
生活サポート項目 | 内容・例 |
---|---|
銀行口座開設支援 | 在留カード提示で開設可能。ゆうちょ銀行など多言語対応の銀行を案内し、手続をサポート。 |
買い物・生活案内 | スーパーの場所や移動手段の説明。一緒に買物に行ったり、日用品の用意を手伝う。 |
光熱費・食費の情報提供 | 電気・水道の使い方、食事の作り方や節約方法など、日本の生活習慣を案内。 |
(3) 公的機関の手続きサポート(在留カード、市役所等)
実習生は入国後、市役所で住民登録をして在留カードや保険証を受け取る必要があります。企業は役所や行政手続きの場所を案内し、必要書類を用意する手助けをします。
また、在留カードの更新(通常は2年ごと)や就労資格変更時も企業がサポートします。手続きが遅れると違法滞在になる恐れがあるため、企業担当者が実習生に手続き期限を知らせるなど、適切な管理が重要です。
市役所での相談は日本語が必要なので、受入企業や監理団体の通訳スタッフが付き添うケースもあります。
(4) 日本文化に馴染むサポート(地域活動、食習慣など)
実習生が日本の生活に溶け込めるよう、異文化体験の機会を提供することも企業の役割です。
例えば、地域の祭りへの参加、バーベキューやスポーツ大会などのイベントを開催する企業・監理団体があります。
ある監理団体では「日本文化を学ぶ会」「日本人との交流会」を年1~2回企画し、参加者には1人あたり2,000円の補助金を出す制度を設けました。これにより、実習生は自分では参加しづらいイベントにも参加でき、日本の文化やマナーを体験しながら学ぶ機会を得られました。
また、食習慣の違いにも配慮し、社員食堂や家庭での食事で具材の説明をする、地元特産品をお土産に渡すなどの工夫が見られます。こうした取り組みは、実習生の生活満足度向上や地域社会との共生にも寄与します。
サポート項目 | 企業の取り組み例 |
---|---|
文化・地域交流 | 年1~2回の日本文化体験イベント(祭り参加、BBQ等)を企画し、実習生に補助金を支給して参加促進。 |
生活習慣指導 | 日本の生活ルール(ごみの分別、交通ルール、マナー等)を教え、社員との交流会を設ける。 |
食事対応 | 社内食堂で食事マナーを説明したり、日本食の作り方を教える。必要に応じて好きな民族食材を調理できる環境を用意する。 |
4.まとめ
以上のように、自動車整備業で技能実習生を受け入れる企業は、職業技能の指導と生活面の支援という両面で準備が必要です。
まず、整備作業ごとに段階的な研修計画を立て、実習生に法定点検や分解整備の基礎を習得させます。同時に、日本語教育にも力を入れ、実習期間中にN4程度の日本語力を身につけさせる環境づくりを行います。
住居や生活面では、法律に則って安全な宿泊施設を提供し、銀行口座開設や買い物、行政手続きなどの日常サポートを行います。また、異文化理解の機会を設けることで実習生が日本で安心して暮らせるようにすることも大切です。
これらの取り組みにより、技能実習制度の目的である「途上国への技能移転」を達成しつつ、実習生の職場定着・満足度を高めることが可能になります。これから制度を利用しようとする企業は、上述のトレーニング内容やサポート例を参考に、計画的な受入れ体制の整備を進めてください。

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