はじめに
近年、日本の交通安全への意識が高まる中で、自動車の安全確保は重要な経営課題となっています。
実際に日本の交通事故死者数は減少傾向にあり、2022年の道路上の死者数は3,216人で、2017–2019年平均に比べ22.9%減となっています。こうした背景から、自動車の定期点検整備の実施は安全運転の基本であり、自動車整備業の信頼向上にも繋がります。
道路運送車両法第47条では「自動車の使用者は、自動車の点検をし…維持しなければならない」と定められています。また、12ヶ月・24ヶ月ごとの定期点検整備がドライバー(使用者)の義務であることが明示されています。
本記事では、定期点検整備と点検整備済ステッカーの制度・役割について解説します。
定期点検整備とは(日常点検との違い)
日常点検とは
日常点検とは、法的義務はありませんが、ドライバーの皆様に必要とされる点検です。具体的には以下が推奨されています。
No. | 点検項目 | 点検内容の説明 |
1 | 冷却水(リザーバ・タンク内)の液量 | 上限ラインと下限ラインの間にあるか確認 |
2 | エンジンオイルの量 | レベルゲージで適正範囲内か確認 |
3 | バッテリー液の量 | 規定範囲内か、揺らして気泡の動きで確認 |
4 | ランプ類の点灯・点滅状態 | 各ランプの点灯・点滅やレンズの破損確認 |
5 | タイヤの亀裂・損傷の有無 | 亀裂、損傷、異物の有無を目視で点検 |
6 | タイヤの溝の深さ(スリップサイン) | 三角マーク付近のスリップサイン確認 |
7 | タイヤの空気圧(たわみ具合) | たわみ具合で空気圧の適正を確認 |
8 | エンジンの始動状態 | エンジンがスムーズに始動・回転するか |
9 | ウインド・ウォッシャ液の噴射 | 適切に噴射されるかを確認 |
10 | ブレーキペダルの踏みごたえと遊び | 踏みしろと床板のすき間を確認 |
11 | 駐車ブレーキの引きしろ/踏みしろ | 操作時に適正な引きしろかを確認 |
12 | アイドリング時の回転とエンジン音 | 異音なくスムーズに回転するかを確認 |
13 | 加速時のスムーズさ(アクセル操作) | アクセルの引っかかりがないか確認 |
14 | ワイパーの作動状態 | 正常に作動しウォッシャー液を拭き取れるか |
15 | ウォッシャー液の残量 | ウォッシャー液が十分にあるか確認 |
定期点検整備とは
定期点検整備は、道路運送車両法で義務付けられた重要な法定点検です。自動車ユーザーが自力で行う「日常点検」とは異なり、専門的な知識・技術・経験を持つ整備工場で実施します。
普通乗用車の場合、車検(24ヶ月点検)の間に実施する「12ヶ月点検(年1回)」と「24ヶ月点検(車検)」があります。
自動車整備業界団体によれば、「定期点検整備」は法令で義務付けられています。
なお、自家用乗用車では1年ごと、貨物・旅客事業用のトラックやバスでは3か月ごとなど、車種や用途によって点検の間隔が異なります。以下に主な点検の種類と実施時期を示します。
点検・整備の種類 | 実施時期・内容 |
---|---|
新車1か月無料点検 | 納車後約1か月で、整備工場が無償で実施 |
6か月無料点検 | 納車後約6か月で、無料メンテナンスを受けられる(メーカーによる) |
12ヶ月定期点検 | 購入1年後(以降1年ごと)に専門家が点検。ブレーキやタイヤ、ライト、オイル類など重要部位を検査し、法令で義務付けられている |
24ヶ月定期点検(車検) | 購入2年後(以降2年ごと)に分解整備を含む総合点検を実施。車検場での検査も含む |
これら点検整備を実施すると、故障の予防や性能維持が図られ、事故リスクの低減につながります。
- 国交省の資料によれば、事業用自動車(トラック・バス)では3ヶ月ごとの点検が義務付けられており、用途による違いに注意する必要があります。
- 法定点検は認証(または指定)整備工場で実施する必要があります。無資格で行うと法令違反となるため、必ず資格工場で実施してください。
点検整備済ステッカーについて
定期点検整備の実施後に車両前面ガラスに貼付される「点検整備済ステッカー」は、法定点検を確実に実施した車であることを示すものです。
このステッカーには点検実施年月と次回点検予定年月が表示されており、顧客が外から見て次回点検時期を把握できるようになっています。裏面には点検整備を実施した整備工場名や次回点検時期が記載され、整備工場の管理証明としても機能します。
ステッカー制度は1971年に自動車整備業界団体が国交省・警察庁の後援のもとに設置したもので、発行は認証工場のみに許可されています。
ステッカーの色は毎年変わり、4年ごとに橙、青、赤、緑の順で繰り返します。
例えば、近年では2020年が橙、2021年が青、2022年が赤、2023年が緑、2024年は再び橙となっています。色はステッカー自体に年度が表示されますが、色が違うと一目で昨年とは違う年の点検整備であると分かる仕組みです。
西暦(年度) | ステッカーの色 |
---|---|
2020年 | 橙色 |
2021年 | 青色 |
2022年 | 赤色 |
2023年 | 緑色 |
2024年 | 橙色 |
MLITの意見募集資料では、「整備の安全性や確実性を欠く作業はユーザーに不信感や不安感を与え、重大事故につながりかねない」と指摘されています。
逆に、定期点検整備済のステッカーを提示することで「プロによる確実な整備を受けた車」という信頼感が顧客に伝わります。整備工場経営者としては、常に法令に則った点検整備を徹底し、点検整備済ステッカーを適切に発行することで顧客の安全と信頼を守りましょう。
- 点検整備済ステッカーは法律上貼付義務のあるものではありませんが、安心感を示す有効な目印です。整備実績の証明として、顧客説明やマーケティングにも活用できます。
- ステッカーは必ず新しいものを貼付し、古いステッカーは剥がして廃棄します。古いデータを残したまま貼り替えないよう注意が必要です。
- ステッカーの色や表示内容に不正がないか確認し、顧客からの問い合わせには丁寧に対応してください。
まとめ
定期点検整備は法令で定められた重要な義務です。ですが、近年整備工場不足から、車検がなかなかできないというケースが増えています。
これは日本にとって危機的状況と言えるでしょう。
東南アジア諸国では、モータリゼーションが始まったばかりでこのような車検制度を設けていない国が多いです。この車検制度こそが日本の自動車に対する信頼のあかしとも言えますし、これから自動車が普及する国々への一種のロールモデルとなり得るほど重要なものです。
自動車整備を円滑に行うためにも、国を挙げて自動車整備工場を立て直していく必要があります。今後、この動きにも注視したいと思います。

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