技能実習生が交通事故や通勤時のトラブルに巻き込まれるリスクは、受け入れ企業にとって深刻な課題です。
ここでは、万が一の事態に備えた企業側の対応策について、「交通事故が起きた場合」と「通勤トラブルが発生した場合」の2つに分けて整理します。もしものときは、是非以下の対応を参考にしてください。
1.技能実習生の交通事故が起きた場合の対応策
交通事故は命に関わる重大なトラブルです。事故発生時に企業が迅速かつ適切に対応することで、実習生本人の保護だけでなく、企業の信頼性を守ることにもつながります。以下はその主な対応方法です。
対応方法 内容 効果 緊急連絡体制の整備 事故発生時に誰に、どのように連絡するかを事前にマニュアル化。通訳を含めた連絡網を整える。 迅速な救命・通報が可能となり、命を救う時間的余裕を確保できる。 技能実習生総合保険の加入と確認 交通事故に備えた傷害・賠償責任保険への加入と補償内容の把握。 治療費・見舞金・相手方への賠償費用等をカバーでき、金銭的負担を軽減できる。 監理団体・OTIT・家族への早期連絡 事故後すぐに関係機関・家族に状況を報告。必要であれば救援者費用制度で家族の招へい。 精神的支援と手続きサポートが得られ、信頼関係の維持にもつながる。 加害事故の場合の警察・保険会社対応 実習生が加害者となった場合、警察への協力、通訳支援、保険申請サポートを迅速に実施。 誠実な対応により、刑事・民事責任を適切に処理し、風評被害を防ぐ。 事故後の復職支援とカウンセリング 治療後の復職時に軽作業への配慮や、心身のフォローアップを実施。 長期的な離職を防ぎ、安心して働き続けられる環境を提供できる。
2.技能実習生の通勤トラブルが起きないための予防策
通勤時のトラブルは小さな事故でも実習生の不安や勤怠トラブルにつながることがあります。予防とトラブル発生時の冷静な対応の両面から備えることが重要です。
対応策 | 内容 | 効果 |
交通ルール教育の実施 | 入国直後に、通勤時の交通ルールやマナーに関する研修を実施(母国語対応) | 事故予防・違反防止につながり、本人と他者の安全を守れる。 |
通勤手段のルール化 | 自転車通勤の可否や、夜間移動の制限など、安全な通勤経路を企業が指定する。 | トラブル発生リスクを低減でき、責任の所在も明確になる。 |
遅延・事故時の連絡ルール明確化 | 公共交通の遅延・自転車故障などによる遅刻時の連絡方法を共有。 | 無断欠勤扱いを防ぎ、適切な勤怠管理が可能になる。 |
通勤用備品(ヘルメット・反射材)の支給 | 夜間通勤や自転車利用者に対して、安全備品を企業から無償で支給。 | 視認性と安全性が高まり、事故リスクを大幅に減らせる。 |
事故発生後の対応訓練(シミュレーション) | 交通トラブルが発生した場合の行動手順を、実習形式で体験させる。 | パニックを防ぎ、冷静に初期対応ができるようになる。 |
3.技能実習生の交通事故・通勤トラブル対応事例
技能実習生が通勤途中や交通事故に遭った際の企業の対応について、良い対応と悪い対応の事例をそれぞれ紹介します。
悪い対応の事例
事例1: 労災隠しと実習生の強制帰国未遂
技能実習生が通勤途中に交通事故に遭い、怪我をしてしまいました。しかし、受入企業は、この事故を労働基準監督署に報告せず、隠蔽を図りました。
さらに事故後、監理団体が被災実習生を強制的に帰国させようと画策し、実習生を空港へ連れて行こうとしました。
この事実が後に発覚し、この受入企業の代表取締役らは書類送検されることとなりました。本事例では、企業と関係者が事故報告義務を怠り、実習生を事実上追放しようとした極めて悪質な対応が問題となりました。
事故後に事実を隠蔽すると、このように大変な事態となることがあります。事故後も慌てることの無く確実な対処が必要となります。
事例2:「死亡しても会社の責任を問わない」誓約書を強要
ある会社では、技能実習生に対し、事故や死亡時の企業責任放棄を事前に強制しました。
配属する際、「本人が死亡しても会社は一切の責任を負わない」という内容の誓約書に署名提出させていました。会社はこの文書を「あなたを守る書類だ」と虚偽の説明をし、署名させていました。
もちろん、誓約書自体は法律上無効ですが、企業が事故時の責任から逃れる意図で労働者に不当な制約を課していた点で、極めて不適切な対応です。
対応方法を誤り、それが明るみになると、大きな事態に発展しかねません。行政からも指導・是正の対象になることもあり得ます。
事故などの対応方法については、必ず専門家に相談を行いましょう。
良い対応の事例
事例1: 重篤な交通事故での迅速な救援措置と家族招へい
ある中小企業(自動車関連製造業)のインドネシア人技能実習生が通勤途中に交通事故に遭い重体となったケースです。
事故直後、会社はすぐに救急対応を行い、監理団体や保険会社にも連絡しました。実習生は医師から「危篤状態であり、家族の付き添いが望ましい」と判断されたため、企業は技能実習生総合保険の「救援者費用」補償を活用し、本国から親族(母親と妻)を緊急招へいしました。
招へいされた家族の渡航費用や日本での滞在費用は保険でカバーされ、実習生本人の治療も含めて経済的負担が軽減されました。
会社側は治療期間中、実習生の通訳サポートやメンタルケアにも努め、家族とともに寄り添った対応を行いました。
その結果、実習生は一命をとりとめ、後に回復していく中で家族の支えも得ることができました。事故発生から治療・補償に至るまで、企業が適切かつ迅速に対処し、制度上利用できる保険制度を最大限活用した良好事例といえます。
事例2: 自転車事故の補償と予防策の徹底
ベトナム人技能実習生を受け入れているある製造業の中小企業で、実習生が通勤中に自転車で走行していた際、歩行者と衝突してしまった事例があります。
この事故で幸い歩行者の命に別状はありませんでしたが、負傷に対する損害賠償責任が発生しました。
ところがB社では、実習生向けの総合保険に加入しており、自転車事故による第三者への賠償責任も保険で補償されていました。
そのため、事故後の賠償手続きはスムーズに行われ、被害者への補償金も保険金から支払われました。実習生本人への指導も改めて行われ、以後はヘルメット着用や安全運転の徹底が図られています。
一般に、多くの受入企業は技能実習生に対しこのような日常生活上の損害賠償に備える保険(自転車保険等)に加入させています。そのおかげで、実習生が万一事故を起こしてしまった場合でも高額賠償に対応でき、当人や被害者を経済的リスクから保護できているのです。
このケースは、事前に保険加入等のリスク管理をしていた企業側の良好対応と、事故後の誠実な補償対応の両面で評価できる事例です。
事例3:警察と連携した交通安全教育の実施
ある会社では、外国人労働者が交通事故や犯罪被害に遭わないよう、警察署に協力を依頼して社内で大規模な安全講習会を開催しました。
警察官2名を講師に招いた講習では、日本の交通ルール、防犯対策、災害時の対応などが外国籍社員・実習生に対して母国語サポート付きで伝えられました。
実習生たちはリラックスした雰囲気の中で真剣に受講し、自転車の施錠励行や夜間の一人歩きの注意、110番・119番のかけ方など具体的なアドバイスを受けています。
このように企業が主体的に警察や行政と連携して事前教育を行うことで、通勤時の事故防止やトラブル未然防止に努めている点は評価に値します。
4.まとめ
以上、技能実習生の交通事故・通勤トラブルに関して、対応方法や事例を紹介しました。
悪い対応の事例では、安全教育の怠慢や労災隠し、責任放棄の強要といった問題が見られ、実習生に深刻な被害や権利侵害をもたらしています。一方、良い対応の事例では、迅速な救援措置、適切な保険加入と補償対応、事故予防のための教育など、実習生の安全と権利を守る企業姿勢が示されています。
これらの事例から、企業規模の大小に関わらず、法令順守と実習生への手厚いサポート体制が重要であることが分かります。特に中小企業では人的・資金的リソースが限られる中でも、監理団体や保険制度、行政機関と連携しながらリスクに備えることが求められます。
技能実習生が安心して働ける環境を整備することは、ひいては企業自身の信用維持にもつながる施策です。今後ますます増える技能実習生。よりきめ細かなサポートをすることによってその企業の価値も高まっていきます。
是非この記事を参考に、もしものときの備えをしてみてください。

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