1.はじめに
自動車整備士(じどうしゃせいびし)とは、車の点検や修理を行うプロのことです。国家資格である自動車整備士試験に合格しなければ名乗ることができません。その試験を受けるためには、国土交通省(こくどこうつうしょう)が定めた年数の実務経験が必要です。
たとえば、高校や大学で機械工学などを学んでいない人は、1年以上の実務経験がないと三級自動車整備士試験を受けられません。逆に、自動車整備の専門学校を卒業すれば、すぐに二級整備士試験を受ける資格が得られる制度になっています。
整備士の資格には、一級から三級までの種類があります。多くの整備士は二級や三級で働いています。一級は高度な資格で、取得するには二級合格後にさらに3年間の実務経験を積むか、一級養成課程のある学校を卒業する必要があります。
国土交通省の規定では、実務経験とは、認証を受けた整備工場などでエンジンやブレーキの分解整備や点検・調整などの作業に従事した経験のことを指します。
オイル交換やタイヤ交換など簡単な作業ばかりをしていた場合や、アルバイト程度の短い勤務では実務経験にカウントされないので注意が必要です。
区分 | 必要な実務経験 | 備考 |
---|---|---|
三級整備士 | 高卒以上(機械科以外)は1年以上の実務経験 | 機械・電気系学科卒業者は6ヶ月以上 |
二級整備士 | 三級合格後3年以上の実務経験 | 自動車整備専門学校卒業者は不要 |
一級整備士 | 二級合格後3年以上の実務経験 | 一級養成課程修了者は不要 |
上の表のように、学校で学ぶ代わりに現場で働いて経験を積むことで試験資格を得るルートがあります。
中小企業の整備工場であっても、社員に計画的に実務を経験させることで、資格取得を支援できます。ただし、その際は国が定めた種類の作業を十分に行わせることが大切です。
オイル交換だけでは経験に含まれないため、エンジンやブレーキなど重要な部分の整備作業を任せる必要があります。
2.中小整備工場における実務経験の積ませ方
中小企業(従業員20~100名規模)の整備工場では、人材育成の仕組みを工夫することで従業員に実務経験を積ませることができます。
まず、新人整備士には先輩の指導のもとで様々な作業を体験させることが重要です。例えば、最初のうちは点検や部品交換など基本的な作業から始め、徐々にエンジン分解やブレーキ調整など高度な作業にも挑戦させます。
先輩社員がメンターとして付き添い、日々の作業後に振り返りやフィードバックを行うと、若手は安心して技能を身につけられます。
また、社内で計画的な研修プログラムを作ることも有効です。
例えば、入社後○年目までに三級整備士試験合格、○年目までに二級取得、といった目標を設定し、目標に合わせて必要な実務を経験させていきます。
中小企業では大企業のように大人数を一度に育成するのは難しいですが、一人ひとりに目を配りやすい利点があります:contentReference[oaicite:12]{index=12}。OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング、仕事をしながらの訓練)とOFF-JT(職場を離れての研修)を組み合わせ、整備振興会などが実施する講習会に参加させるのも効果的です。
加えて、地元の高校や専門学校との連携も検討できます。高校の工業科や自動車科の生徒を対象に、職場見学会や1日体験入社を受け入れることで、自社の仕事を知ってもらい将来の従業員候補を育てることができます。
実際に、長野県のある小規模整備工場(従業員10名)では地元高校と連携して2週間のインターンシップを導入し、自動車整備の楽しさを伝えた結果、2年間で20代の若手整備士3名の採用に成功しました。このように、小さな工場でも地域と協力して人材を育成することが可能です。
3.民間企業のインターンシップ制度の活用
インターンシップとは、学生などが企業で短期間働き職業体験をする制度です。中小の整備工場でもインターンを受け入れることで、人材育成や採用につなげることができます。
例えば、沖縄県の松宮オートサービスでは、地元の那覇工業高校から毎年インターン生を受け入れ、3日間の職場体験を提供しています。インターンの学生は実際の車検整備や板金塗装の流れを体験し、先輩整備士との交流会にも参加します。
このような経験は学生にとって貴重であり、整備士という仕事への理解と興味を深める機会になります。
企業側にとってのメリットは、将来の人材を早期に発掘できることです。インターンで熱意や適性を感じた学生を卒業後に採用できれば、ミスマッチの少ない人材確保につながります。また、社内の若手社員にとっても学生を指導することで成長の機会になります。
一方、デメリットとしては、指導に手間がかかることです。忙しい時期にインターン生の面倒を見る余裕がないと、双方にとって良い体験になりません。また、インターンは基本的に報酬が発生しない職業体験ですが、長期インターンの場合は労働法上の扱いに注意し、必要に応じて賃金支払い・保険加入を検討する必要があります。
メリット | デメリット |
---|---|
将来の整備士候補を発掘できる(採用ミスマッチの減少) | 指導に時間と労力がかかる(業務負担の増加) |
会社の魅力を学生にPRできる(知名度向上) | 受け入れ体制の整備が必要(計画・担当者の準備) |
現場の社員にも指導経験で成長機会が生まれる | インターン後に必ず入社する保証はない |
インターンシップを成功させるポイントは、事前に明確な受け入れ計画を立てることです。学生がどのような作業を体験できるか、安全に配慮したプログラムを用意しましょう。
また、受け入れ後にはフィードバック面談を行い、学生からの感想を聞くことで自社の課題発見にもつなげられます。中小企業ではマンツーマンで丁寧に指導できる強みがありますので、それを活かして「学びの多い現場体験」を提供すると良いでしょう。
4.実務経験の証明方法
従業員が実務経験を積んだら、それを正式に証明する必要があります。国家試験の受験申請時には「実務経験証明書」という書類を提出します。この証明書には、整備士試験を受ける人がいつからいつまで(〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで)どの整備工場で働き、どのような作業に従事したかを記入します。
事業場名や認証番号(工場が国の認証を受けている場合)はもちろん、工場長など責任者の印鑑も必要です。
証明書の様式は各都道府県の自動車整備振興会で入手できます。注意点として、その工場が国の認証を受けていない場合(無認証工場など)は、作業場の見取り図や保有する工具リスト、作業場や工具の写真など追加資料の提出を求められることがあります。
これは本当に適切な設備で整備作業をしていたか確認するためです。また前述したように、オイル交換など簡易な作業ばかりだと実務経験と認められないため、証明書にもそうした作業は含められないことに注意しましょう。
実務経験証明書は受験申請ごとに新たに提出する必要があり、一度提出したものを次回以降の試験で使い回すことはできません。整備振興会が内容を確認し、不備があれば差し戻されます。証明書を工場長に書いてもらうときは、期間や作業内容に誤りがないよう十分確認しましょう。
特に、複数の工場で経験を積んだ人はそれぞれの工場で証明書を書いてもらい、申請時にまとめて提出する必要があります。
5.2000年以降の制度変遷と現状の課題
2000年以降の制度変遷(整備士関連)
自動車整備士を取り巻く制度は2000年以降に大きく変化しています。平成15年(2003年)には、新たに一級自動車整備士という最上位資格が創設されました。
一級整備士は高度化する車両技術に対応できる人材を育成する目的で導入され、現在までに約2万人が資格を取得しています。その後もハイブリッド車や電気自動車の普及、自動運転技術の登場に伴い、整備士に求められる知識・技能は高度化しています。
直近では令和元年(2019年)に道路運送車両法が改正され、翌令和2年4月から「自動車特定整備」制度がスタートしました。これはそれまで法律上なかった電子制御装置の整備(例えば自動ブレーキのカメラやセンサーの調整など)を、新たに「特定整備」として整備士の業務範囲に追加するものです。
これにより高度な電子制御システムを扱う作業には、従来の「分解整備」だけでなく専門の資格と認証が必要となりました。中小の整備工場にとっては機器の導入や技術者育成の負担が増えましたが、国としては安全確保のため避けられない措置でした。
2000年以降の制度変遷(人材関連)
また、人材面では平成28年(2016年)から自動車整備分野で外国人技能実習生の受け入れが解禁されました。それ以前は整備士志望の外国人は板金塗装など別の職種名目で受け入れる必要がありましたが、2016年以降は正式に「自動車整備」で3年間の実習が可能になりました。
例えば、大手カー用品チェーンのオートバックスでは2006年から技能実習生を受け入れており、2016年の制度変更後は全国のフランチャイズ店に対象を広げ、15年間で約160名の外国人実習生を育成しています。これは深刻化する人手不足への対策の一つと言えます。
現状の課題
現状の課題として、自動車整備士の人手不足と高齢化が挙げられます。整備士を志す若者が減少し、専門学校の入学者数は過去10年で約半分に落ち込みました。一方で整備士の平均年齢は毎年上昇しており、2021年度時点で約46歳にも達しています。
現在、中小の町工場では若手不足が深刻で、経営者の高齢化も相まって将来の事業継承(後継者問題)が懸念されています。
この10年間で国家資格を持つ整備士の数は約1万2千人減少しました。若い整備士が入ってこない一方でベテラン世代が定年で引退していけば、今後ますます人手不足が深刻化する恐れがあります。実際、整備工場の約5割が「すでに人手不足を感じている」というデータもあります。
国土交通省や業界団体も対策に乗り出しています。直近では令和7年(2025年)7月から、二級・三級整備士試験の受験に必要な実務経験年数を短縮する予定です。具体的には三級試験は従来の必要経験期間の半分に、二級試験は3分の2に短縮されます。
この緩和によって若い人がより早く資格を取り、即戦力として現場に出られるようにする狙いです。ただし、経験年数を短くする分だけ質の高い指導や教育が求められるため、企業側の育成力強化も課題となるでしょう。
6.まとめ
年 | 制度・出来事 | 内容 |
---|---|---|
2003年 | 一級自動車整備士の創設 | 最上位資格「一級小型自動車整備士」が新設。高度な理論・技能を持つ人材育成。 |
2016年 | 技能実習制度に整備分野追加 | 外国人技能実習に「自動車整備」職種を追加。海外から実習生受け入れが可能に。 |
2020年 | 特定整備制度の開始 | 電子制御装置の整備を「特定整備」として新たに認可。ADAS対応のため法改正。 |
2025年 | 実務経験年数の要件緩和 | 二級・三級試験の受験資格となる実務経験期間を短縮。若手整備士増加を図る。 |
自動車整備士の世界では、実践を通じて育つことが何より重要です。国の制度を上手に活用しながら、中小企業ならではのきめ細かな育成で、次世代の整備士を育てていきましょう。

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