中国と東南アジア諸国のこれから~中国不況の影響について~

1.はじめに

2000年代以降、中国は驚異的な経済成長を遂げてきましたが、近年は成長の減速や不況の兆候が鮮明になっています。こうした中国経済の変調は、インドネシア・ベトナム・カンボジア・タイといった東南アジア諸国にも大きな影響を及ぼしています。

本記事では、中国の経済状況と不況傾向を概観し、中国と東南アジアの関係(貿易・インフラ支援・下請け構造)、中国によるダンピングの実態、そして東南アジア経済の発展と中国との関係性や今後の見通しについて、丁寧に解説します。

2.中国の経済状況と不況の傾向

中国の経済状況の推移

中国経済は2000年代に入って高度成長を続け、一時は年率10%を超える成長も達成しました。特に2003年から2007年にかけては二桁成長が続き、2007年には14.2%という最高水準に達しました。

しかし、その後は徐々に成長ペースが低下し、2010年代後半には6~7%台に減速、2020年には新型コロナウイルスの影響で2.3%まで急落しました。2021年に8.5%と一時的な反発を見せたものの、2022年には3.1%と再び低迷し、2023年も5%台の成長にとどまっています。

年度 実質GDP成長率 (前年比)
2000年 8.6%
2007年 14.2%(ピーク)
2010年 10.6%
2015年 7.0%
2019年 6.1%
2020年 2.3%(コロナ禍)
2021年 8.5%
2022年 3.1%
2023年 5.3%

中国の実質GDP成長率の推移(2000~2023年)。2000年代は平均8~10%台の高成長を遂げたが、2010年代後半から成長の鈍化が顕著となり、2020年以降は低成長に苦しんでいる(「IMF」参照)。

成長鈍化の背景

こうした成長鈍化の背景には、構造的な課題が指摘されています。

第一に、中国国内の債務問題や不動産バブルの調整です。政府と企業の債務残高が膨らむ中、近年は不動産開発大手の経営危機が相次ぎ、不良債権処理や投資縮小が経済の重しとなっています。

第二に、人口動態の変化も無視できません。2022年に中国の総人口はついに減少へ転じ、生産年齢人口の減少と高齢化が長期的な成長率を押し下げると予想されています。さらに、米中対立による輸出産業への逆風や、コロナ後の個人消費の回復遅れも相まって、デフレ懸念(物価下落)すら浮上する状況です。

足元では、製造業の景況感を示すPMI(購買担当者指数)が低迷し、失業率も都市部青年を中心に上昇傾向にあります(※中国国家統計局は2023年夏以降、若年失業率の公表を停止)。

このように、中国経済は「新常態(ニューノーマル)」とも呼ばれる低成長期に入りつつあり、景気刺激策の効果も限定的とみられています。IMFや世界銀行の予測でも、中国の成長率は2024年に5%前後、2025年には4%を下回る水準まで低下するとの見通しが出されています。

3.中国と東南アジアの関係

貿易面の関係

中国経済の台頭に伴い、東南アジア諸国との経済的な結びつきは近年飛躍的に強まりました。貿易面では、東南アジア諸国連合(ASEAN)は2020年以降、中国にとって最大の貿易相手地域となっています。

ASEAN全体で見ると、2023年には中国とASEANの双方向の貿易額は約4,688億ドル(人民元換算3.36兆元)に達し、前年から10.5%増加しました。中国側の対ASEAN輸出が14.2%増と大きく伸び、ASEANからの輸入も5.2%増加しています。

特にベトナムやインドネシアとの貿易が活発で、ベトナムは中国にとってASEAN域内で最大の貿易相手国です。

以下の表に、中国と東南アジア主要国(インドネシア、ベトナム、タイ、カンボジア)の貿易額と各国にとっての中国依存度をまとめます。

国名 中国との貿易総額(直近年度) 各国総貿易に占める中国比率
インドネシア 1,490.9億ドル(2022年) 25.2%(輸出の22.6%、輸入の28.5%)
ベトナム 2,300億ドル前後(2023年) 約20%(輸出の15.5%、輸入の32.9%)
タイ 1,263億ドル(2023年) 22%(タイ全貿易に占める割合)
カンボジア 151.9億ドル(2024年) 30%(カンボジア全貿易に占める割合)

各国とも中国への輸出入が占める割合が高く、中国はこれら諸国にとって最大級の貿易相手となっています。

例えば、インドネシアは全輸出の約23%を中国向けとしており(石炭やニッケルなど資源が中心)、輸入の約3割を中国から調達しています。ベトナムにとっても、中国は最大の輸入元(全輸入の約3分の1)であり、電子部品・機械類など中国からの中間財に大きく依存しています。

タイも農産品の主要な輸出先として中国を位置付ける一方、電子機器や機械の大口輸入先となっています。カンボジアは規模こそ小さいものの、繊維原料や機械を中国から大量に輸入し、自国の加工貿易を支えています。

インフラ支援や投資関係

次にインフラ支援投資の面では、中国政府主導の「一帯一路(BRI)」構想の下、東南アジア各国で大規模プロジェクトが進められています。

インドネシアでは中国の融資と企業が建設に関与した高速鉄道(ジャカルタ~バンドン間)が開通し、カンボジアやラオスでも中国資本による道路・鉄道整備が相次ぎました。

例えばラオスでは、中国からのインフラ融資が累積し対外債務の3割以上を中国が占める状態となり、「債務のわな(Debt Trap)」リスクも指摘されています。カンボジアでも、中国は最大の投資国であり、2024年にはカンボジアへの外国直接投資(FDI)の約50%を中国からの投資が占めました。この資金で港湾整備や経済特区開発が進められ、現地の産業インフラ向上に寄与しています。

東南アジアの下請け構造

中国企業は東南アジアを「生産拠点」としても重視しています。人件費の上昇した中国国内から、コスト競争力のある東南アジアへ製造業の一部を移転する動きが活発です。

特にベトナムやカンボジアには衣料品・電子組立などの工場が多数移転し、現地企業が中国企業の下請けとして製造を担うケースも増えています。

中国とベトナムの産業分業は密接で、ベトナムの対米輸出品の中には中国から部品や素材を調達して組立・加工したものも多く含まれています。実際、ベトナムの対米輸出の28%は中国製部品を含むとの分析もあり、サプライチェーン上で中国が裏方(下請け元)になっている構図が見て取れます。

中国企業が東南アジアに生産拠点を移す大きな理由は、人件費をはじめとするコストメリットです。中国の製造業平均賃金は近年大幅に上昇し、例えば2020年時点の平均工場労働者の時給は約6.5ドルにも達していました。

これは同年のベトナム(約3ドル)の2倍強に相当し、タイやインドネシアと比べても依然高い水準です(タイも推定4~5ドル程度、インドネシアは地域差がありますがおおむね3~4ドル程度とみられます)。またカンボジアの労働賃金は更に低く、縫製産業の月額最低賃金は約200ドル(時給換算で1ドル強)に過ぎません。

こうした賃金格差を背景に、中国企業は労働集約型の生産を東南アジアにシフトし、自国はより付加価値の高い工程に注力する戦略を取っています。結果として、東南アジアの工業化・雇用創出が進む一方、中国と東南アジアの産業は縦割りの下請け構造で結ばれ、相互依存が深まっています。

4.中国による東南アジアへのダンピングの実態

中国経済の減速や過剰生産能力の問題は、安価な輸出攻勢(ダンピング)という形で東南アジアに波及しています。中国国内で供給過剰となった鉄鋼や繊維製品などが低価格でASEAN市場に流れ込み、現地の産業(特に鉄鋼分野)に打撃を与えているのです。

ベトナムの状況

ベトナムでは安価な中国製鋼材の流入に対抗するため、商工省が中国(および韓国)産の一部鉄鋼製品に対し最大27.8%の仮措置的反ダンピング関税を課す決定を行いました。

インドネシアの状況

インドネシアでも、工業界から中国製繊維・衣料品や鉄鋼製品の流入に対する懸念が高まっており、政府は今後、中国製品を念頭に置いた反ダンピング法制の強化を計画しています。

実際にインドネシアでは、中国から安価な繊維製品が大量に輸入された結果、地元の繊維工場が閉鎖に追い込まれるケースも報告されています。

2025年4月にジャカルタで開催された繊維産業の展示会でも、「市場が厳しいのは中国から製品が大量に入ってきているせいだ」といった声が聞かれ、中国メーカーが多数出展して先進的な織機や安価な生地を売り込む姿に、現地業者は強い危機感を抱いていました。このような状況に対し、インドネシア政府は一部の中国製品に100~200%もの高関税措置を検討するなど、緊急輸入制限(セーフガード)や関税引き上げによる国内産業保護策を模索しています。

タイの状況

タイでも事情は似ており、中国から廉価な鋼材が流入して国内鉄鋼メーカーが苦境に陥っています。タイ鉄鋼協会などは「中国からの輸入増加が東南アジア全域の鉄鋼産業を脅かしている」と警鐘を鳴らし、域内協調しての対策を呼びかけています。タイ政府は直ちに輸入関税を大幅引き上げる措置には踏み切っていないものの、中国製品の動向を厳重にモニタリングし、不当廉売が認められれば制裁も辞さない姿勢を見せています。

ダンピング問題の背景とは

このダンピング問題の背景には、中国における供給能力過剰と内需減速があります。中国政府は過剰設備の削減(いわゆる「ゾンビ企業」淘汰)を進めていますが、それでも鉄鋼やアルミ、化学繊維など多くの業種で国内需要を上回る生産が続いています。

その余剰品が輸出に回り、世界市場で価格破壊を引き起こしているのです。東南アジア諸国にとって、中国から安価な資材や製品を輸入できること自体はコスト低減のメリットもあります。しかし国内育成中の産業が駆逐されてしまうリスクも大きいため、各国政府は中国製品との競合分野で産業政策上のジレンマに直面しています。

例えばベトナムは、自国が必要とする鉄鋼材料の多くを中国から輸入していますが、同時に国内鉄鋼業を守るため先述のような反ダンピング関税を科す措置を取りました。

インドネシアも、豊富なニッケル・石炭など資源輸出では中国特需を享受する一方で、繊維など労働集約型産業では中国製品との競争に晒されています。

結果としてインドネシアの対中貿易は、輸出の9割以上が石炭・ニッケルなどの一次資源で占められ、工業製品では大幅な輸入超過(貿易赤字)となっています。

2023年には資源価格下落もあって、インドネシアは対中貿易収支が赤字へ転落し、経常収支の悪化要因ともなりました。このように、中国の景気変動や輸出攻勢は東南アジア諸国の産業構造と交易条件に大きな影響を及ぼしています。

5.東南アジア経済発展と中国との関係性、今後の予測

東南アジアの経済発展と中国の成長減速

東南アジア諸国は近年、堅調な経済成長を維持してきました。

とりわけインドネシアやベトナムは5%前後の成長率で推移し、カンボジアも衣料輸出や観光復調を背景に約5%の成長が見込まれています。

一方、地域最大の経済である中国の成長減速は、ASEAN全体の将来に影を落としつつあります。世界銀行の見通しによれば、東アジア・太平洋地域の成長率は中国経済の減速を主因として、2025年には4.6%まで低下する可能性があるとされています。

これは直近(2023年)の同地域成長率5.1%からのさらなる減速予測であり、東南アジアも対中輸出の伸び悩み等を通じて下振れ圧力を受けるとの懸念があります。

東南アジア諸国の対策

東南アジア諸国は総じて内需の拡大と経済の自律性向上に努めており、一部では中国経済の減速を補う動きも見られます。

例えば、ベトナムやインドネシアは多角的な輸出市場開拓を進め、近年ではアメリカや欧州向け輸出が急増しています。ベトナムの対米輸出額は2012年比で5.5倍に拡大し(2022年時点)、米国が中国と並ぶ重要な輸出先として台頭しました。

またフィリピンやマレーシアなど他のASEAN諸国も、中国依存度を下げるため日本・欧州・インドなどとの経済連携を強めています。

その他各国は反ダンピング関税を課すなどの対策を行っています。

中国と東南アジア諸国のこれからの関係性

一方で、中国は東南アジアにとって引き続き巨大な投資・観光・貿易の源であることも事実です。コロナ禍後、中国からの観光客が戻りつつあるタイではサービス収支が改善し、景気の下支え要因となっています。また中国企業の対ASEAN投資も旺盛で、製造業やデジタル経済分野での合弁・進出が拡大しています。

タイはEV(電気自動車)の地域生産拠点化を目指し、中国のEVメーカーや電池メーカーからの投資を積極的に誘致しています。インドネシアもニッケルなど鉱物資源をテコにEV用電池産業への中国からの投資を呼び込み、付加価値の高い産業育成を図っています。

こうした動きから、今後の東南アジア経済は「中国との協調と競合の両面」で展開すると考えられます。

一方では中国市場・資本を取り込み成長を加速させつつ、他方では中国との競争に晒される産業の競争力強化や市場多角化が課題となります。

各国政府は中国依存度の高い分野(例えば原材料輸入や特定輸出市場)で脆弱性を認識し、サプライチェーンの強靭化やFTAの活用による輸出先拡大に取り組んでいます。

今後の予測

今後の予測としては、中国経済は中長期的に年3~5%程度の中低成長が定着すると見られ、東南アジア諸国も従来のような「中国経済の高成長による波及効果」に過度に期待することはできません。

一方で、東南アジア自身の経済規模は着実に拡大しており、域内協力も深化しています。RCEP(地域的な包括的経済連携)協定の発効により、中国とASEANの貿易・投資は今後も質的に強化されるでしょう。

東南アジア企業にとって、中国との関係は引き続き重要ですが、「中国プラスワン」の戦略で他地域との取引や現地生産も拡充し、バランスを取る動きが加速すると考えられます。

中小企業の経営者にとっても、このダイナミックな環境変化を注視することが重要です。中国からの安価な製品流入は脅威である一方、東南アジアの新興市場や調達先としての魅力も増しています。

例えば、中国から直接輸入していた部品をベトナムやタイのサプライヤーに切り替えるといったサプライチェーン戦略の再検討も選択肢になるでしょう。

加えて、東南アジアへの輸出機会も広がっています。現地のインフラ発展や所得向上に伴い、質の高い製品・サービスへの需要が高まっているため、日本の中小企業にとっても新たな市場開拓のチャンスが存在します。

6.まとめ 

2000年以降の中国経済は高成長から減速局面へと移行しつつあり、その影響は東南アジアに波及しています。

中国と東南アジアは貿易・投資で深く結びつき、協力関係を強める一方、ダンピングや競争激化という課題も顕在化しています。東南アジア各国は中国との関係性を巧みにマネジメントし、自国の持続的な発展を図ろうとしており、日本の中小企業もこの変化を捉えて戦略を練ることが求められるでしょう。

各国経済の先行きには不確実性もありますが、地域全体としては多様な成長ドライバーを活かし、堅調な発展を続けていく可能性が高いと期待されます。今後も中国と東南アジアの動向を注視し、リスクと機会の双方に備えることが重要です。

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