東南アジアの自動車整備業事情とは?技能実習生の採用前に知っておきたい基礎知識

整備士

1. はじめに:なぜ東南アジアの整備業事情を知るべきか

日本の自動車整備業界では、深刻な人手不足が続いています。整備士の平均年齢は上昇し、若い担い手が減る中、有効求人倍率は全産業平均の約5倍に達しているというデータもあります【出典:国土交通省】。

こうした背景から、日本では外国人労働者の受け入れが急速に進んでおり、その多くが「技能実習生」や「特定技能外国人」として働いています。とくに派遣元となる国の多くが東南アジア地域であることが注目されています。

これらの国々では、自動車産業や整備業が発展段階にあり、多くの若者が技術を学び、海外での就労を目指しています。そのため、現地の整備業事情を理解することは、採用や育成を成功させ、戦力化するうえで非常に重要です。

本記事では、東南アジア6カ国(ベトナム、フィリピン、インドネシア、ミャンマー、タイ、カンボジア)の整備業の状況を国別に解説するとともに、外国人整備士を受け入れる際に役立つポイントや実例を紹介します。

2-1. ベトナムの自動車整備業事情

概要・モータリゼーションの状況

ベトナムでは、近年になってようやく「マイカー」ブームが始まりました。人口あたりの自動車保有台数はまだ低く、四輪車の普及率はわずか5%程度にとどまっています【出典:JETRO】。

一方、二輪車(バイク)はほぼ一人に一台あるといわれるほど普及しています。2022年には一人当たりGDPが4,000ドルを超え、本格的なモータリゼーションの段階に入りつつあります。

ただし、車両価格が高く、特別消費税や登録料などの負担も大きいため、自家用車の急速な普及には至っていません。

車種の傾向(ガソリン・HV・EV)

現在ベトナムで走っている車の大半はガソリン車です。ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)はまだ少数ですが、国内自動車メーカー「VinFast(ビンファスト)」がEVに力を入れており、政府もEV普及に関心を示しています。

とはいえ、充電インフラや車両価格といった課題があり、EVの一般的な普及はこれからの課題と言えるでしょう。

整備労働者数と訓練状況

車の増加に伴い、整備士の需要も急増しています。ベトナムでは自動車整備を学べる大学や専門学校が非常に人気で、2021年には自動車関連を学ぶ学生数が12万3千人以上に達したと報告されています【出典:ベトナムウェブ通信】。

近年は故障診断やEV整備など、より高度な分野にも対応できる人材の育成が進められています。若者の間では「クルマに触る仕事」が憧れの職業とされ、特に男性に人気があります。

日本との連携・実習生の派遣

ベトナムは日本における自動車整備分野での最大の人材供給国です。技能実習制度に「自動車整備職種」が追加された2016年以降、多くのベトナム人が来日しています。

2023年末時点のデータでは、特定技能(自動車整備分野)の在留者のうち、半数以上をベトナム人が占めており、技能実習生においてもベトナム出身者が58.2%と最多です【出典:出入国在留管理庁】。

現地の送り出し機関と日本企業との連携も強く、在学中から日本語教育や整備の実習を取り入れる学校も多く存在します。

その他特筆事項

JICAの支援により、日本で技能を習得した人材がベトナム国内でその技術を還元する「人材還流プラットフォーム」の構築が進められています。これは、ベトナムと日本の双方にメリットをもたらすモデルとして注目されています。

2-2. フィリピンの自動車整備業事情

概要・モータリゼーションの状況

フィリピンは人口1億人を超える島国ですが、自動車の普及率は東南アジアの中では比較的低い水準にあります。世帯単位での自動車普及率は10%未満とも言われており、依然として公共交通機関や二輪車に大きく依存しています【出典:J-STAGE論文】。

ただし、経済成長に伴い中間所得層が増加しており、新車販売市場は着実に拡大しています。日系メーカーが市場の約半分のシェアを占めており、今後のモータリゼーションの進展が期待されています。

車種の傾向(ガソリン・HV・EV)

フィリピンで流通する車の大半はガソリン車やディーゼル車です。特徴的なのは、古いディーゼルエンジンの「ジープニー」と呼ばれる乗合バスが未だに多く走っている点です。

政府は排ガス対策として「ジープニーの近代化」政策を進めており、電動ジープニーなどへの置き換えが推奨されています。また、2022年には電動車(EV)の輸入関税を免除する「EV産業育成法(EVIDA)」が制定され、政府主導でEVの普及が始まりました【出典:JETRO】。

しかし、インフラ整備が遅れているため、EVの普及はまだごく一部にとどまっています。

整備労働者数と訓練状況

フィリピンには政府機関TESDA(技能教育訓練庁)があり、全国で自動車整備の職業訓練を提供しています。国家技能証明制度も整備されており、一定の基準を満たした整備士が輩出されています。

加えて、日本のいすゞ自動車が運営する「ハート&スマイル・プロジェクト」など、民間の育成支援も盛んです。このプロジェクトでは、経済的に困難な若者に無償で整備技術を教え、卒業生たちは現地のディーラーなどで活躍しています【出典:いすゞ自動車】。

2023年には、ダバオ市の専門学校にヤマハ発動機が教材としてオートバイを提供し、日本語教育と整備教育を融合させた人材育成も始まりました【出典:PR TIMES】。

日本との連携・実習生の派遣

フィリピンは技能実習制度において、溶接や建設系の人材の送り出し実績が豊富です。2016年以降は自動車整備職種でも実習生の派遣が始まり、特定技能制度でも2023年末時点で815人が自動車整備分野で就労しています【出典:出入国在留管理庁】。

フィリピン人は英語が堪能なため、日本語の習得が早く、現場でのコミュニケーションも円滑だと評価されています。また、技能実習を満了後に特定技能ビザに切り替えて再来日し、戦力として活躍するケースも増加中です。

その他特筆事項

フィリピンは海外就労志向が非常に強く、日本以外にも中東やシンガポールなどへ整備士を送り出しています。今後はフィリピン国内の自動車市場拡大により、逆に人材の国内需要が増す可能性もあります。

日本では、フィリピン人の整備士が明るく、社交性が高いという評価もあり、チームワークを重視する職場との相性も良いとされています。

2-3. インドネシアの自動車整備業事情

概要・モータリゼーションの状況

インドネシアは人口約2.7億人を誇る東南アジア最大の国であり、自動車市場も非常に大きなポテンシャルを秘めています。2010年代には年間新車販売台数が100万台を超える年もありました。

ただし、人口規模と比較すると保有台数はまだ少なく、100人あたりの自動車台数は十数台程度にとどまっています。都市部では乗用車が普及し始めていますが、地方では依然としてオートバイが主な交通手段です。

車種の傾向(ガソリン・HV・EV)

市場の主力はガソリン車およびディーゼル車で、トヨタや三菱など日系メーカーのミニバンやSUVが人気です。

ハイブリッド車はトヨタの「イノーバ」などが導入されており、富裕層を中心に普及し始めています。EVについては、政府が国産化と普及を目指して力を入れており、補助金や税制優遇などが整備されています。

ただし、充電インフラの整備はまだ進行中で、一般的な普及はこれからといえます。

整備労働者数と訓練状況

政府は全国に職業訓練所(BLK)を設置し、自動車整備教育を提供しています。また、職業高校(SMK)でも整備技術が教えられており、人材育成体制は広がりつつあります。

しかし、教育水準にばらつきがあることが課題で、電子制御やEV対応のカリキュラムが不十分なケースもあります。

これに対し、トヨタなどの日系企業が教育機関と連携して教材提供や教員育成を支援する取り組みを進めています。

日本との連携・実習生の派遣

インドネシアからも多くの技能実習生が来日しており、技能実習全体でベトナムに次ぐ2位の人数を誇ります。自動車整備職種でも一定数の実績があり、2023年末時点では特定技能で216人が就労しています。【出典:出入国在留管理庁】。

日本側では「まじめで器用」という評価が多く、今後も受け入れの拡大が期待されています。

その他特筆事項

整備士の社会的地位向上が課題とされており、若者の就職先としての魅力を高める努力が求められています。

また、EVやHVの普及により、より高度な技術を持つ整備士の育成が急務となっています。

2-4. ミャンマーの自動車整備業事情

概要・モータリゼーションの状況

ミャンマーは長らく自動車の輸入規制が厳しく、車両流通が制限されていましたが、2011年以降の民主化と規制緩和により中古車が急増しました。

とくに右ハンドルの日本車が多く走っており、都市部では日本の中古プリウスが多数見られます。

ただし2021年以降の政情不安によって市場は停滞しており、今後の成長には不透明感があります。

車種の傾向(ガソリン・HV・EV)

主に中古のガソリン車やディーゼル車が流通しています。EVはインフラ未整備のため普及しておらず、ごく一部で中国製EVバイクが導入され始めた程度です。

ハイブリッド車もまだ少なく、整備業界としては旧型ガソリン車への対応が主となっています。

整備労働者数と訓練状況

自動車整備の専門教育は限定的で、多くの整備士が徒弟制度のような現場経験でスキルを習得しています。都市部には日系企業のサービスセンターがありますが、地方では整備技術のレベルにばらつきがあります。

JICAは職業訓練校への支援や教材提供などを行っており、日本の民間教育機関による育成支援も見られます。

日本との連携・実習生の派遣

ミャンマーは技能実習制度における重要な供給国の一つであり、自動車整備分野ではまだ少数ながら実績があります。2023年末時点で特定技能で124人が就労中です。

政治情勢の影響を受けやすい面はあるものの、日本語学習に意欲的な若者も多く、今後の安定化が期待されています。

その他特筆事項

仏教徒が多く、生活習慣や価値観が日本と異なる点もありますが、丁寧な指導と配慮によって良好な関係を築くことが可能です。

将来的には、母国の整備業の復興を担うリーダーとなる人材も育つことが期待されています。

2-5. タイの自動車整備業事情

概要・モータリゼーションの状況

タイは東南アジアの中でも最も自動車が普及している国の一つで、人口約7,000万人に対し、保有台数は2,500万台を超えています。

「東洋のデトロイト」とも呼ばれる自動車生産拠点でもあり、自国産業としても非常に重要な分野となっています。

車種の傾向(ガソリン・HV・EV)

主に日本車が多く、ガソリン車のほかハイブリッド車の普及も進んでいます。最近ではEVの普及にも力を入れており、中国メーカーの進出により販売台数が急増しています。

政府は2030年までに生産台数の30%をEVにする「30@30」政策を掲げており、インフラ整備も進行中です。

整備労働者数と訓練状況

タイでは整備士の教育体制が整備されており、国家資格制度や専門学校、訓練センターが充実しています。

タイトヨタ自動車整備学校などの専門機関では体系的なカリキュラムが整っており、多くの整備士を輩出しています。地方では人材不足もあり、技能格差の解消が課題となっています。

日本との連携・実習生の派遣

タイからの技能実習生や特定技能外国人はまだ少数ですが、2023年末時点で特定技能で24人が就労中です。

技術レベルの高い人材が多いため、日本語の壁を越えられれば即戦力として高い評価を得られる可能性があります。

その他特筆事項

EVの普及に伴い、高電圧設備への対応や安全教育の重要性が高まっています。

日本とタイは技術交流の歴史が長く、現地でも日本の整備技術が深く浸透しています。

2-6. カンボジアの自動車整備業事情

概要・モータリゼーションの状況

カンボジアでは自動車の普及はまだ始まったばかりで、主に二輪車や三輪タクシーが庶民の移動手段となっています。

都市部ではアメリカから輸入された中古のトヨタ・プリウスなどが走っていますが、車の保有率は非常に低い状況です。

車種の傾向(ガソリン・HV・EV)

主に中古のガソリン車が流通しています。ハイブリッド車はアメリカからの輸入が多く、比較的中古価格が安いため、都市部では見られるようになってきました。

EVについては政府が関心を示していますが、現時点では導入はごく一部に限られます。

整備労働者数と訓練状況

整備士の数は少なく、整備業自体が発展途上にあります。国の職業訓練校も整備技術の教育体制がまだ不十分で、教材・機材の不足が課題です。

このため、日本のJICAや民間企業が整備士育成の支援を行っており、NPIC(国立工科大学)には日本式の整備研修センターが設けられています。

日本との連携・実習生の派遣

カンボジアからの自動車整備分野における技能実習生の派遣は2018年ごろから始まりました。2023年末時点では特定技能で46人が就労中です。

送り出し機関と日本の整備業団体が連携する事例も増えており、日本での就労を目指す若者への支援体制が整いつつあります。

その他特筆事項

人材の絶対数は多くありませんが、素直で吸収力の高い若者が多く、日本語教育と技術指導の体制を整えれば、優秀な戦力となります。

また、帰国後に日本で学んだ技術を生かして現地で指導者となる好循環も期待されています。

3. 採用の前に確認すべきポイント

現地での整備経験や資格の有無を確認する

東南アジア諸国では、整備士としての技能水準や教育背景にばらつきがあります。職業訓練を修了しているか、実務経験があるかどうかは、採用後の教育期間にも大きく影響します。

面接時や履歴書の確認だけでなく、送り出し機関と連携し、候補者の訓練校卒業証明書や技能検定結果などをきちんと確認しておくことが重要です。

実習制度・特定技能試験とのギャップ

技能実習制度や特定技能制度では、対象となる作業内容がある程度定められています。

たとえば、技能実習の整備作業は車検整備や法定点検が中心ですが、実際の現場では電子診断機器を用いた作業や複雑なトラブルシュートが求められることもあります。

そのため、現地での実習経験があっても、日本の実務にすぐ対応できるとは限りません。採用前に業務内容をしっかり説明し、ギャップを埋める研修を想定しておくことが必要です。

技術指導時の文化的配慮(言語、宗教、礼儀など)

日本とは異なる文化背景を持つ外国人材に対しては、技術指導の際にも一定の配慮が求められます。

たとえば、イスラム教徒であるインドネシア人は、礼拝の時間が決まっていたり、豚肉の扱いに制限があったりします。

また、敬語や上下関係のとらえ方も異なる場合があります。日本語の指示だけでは理解が難しい場合もあるため、やさしい日本語や視覚資料の活用も有効です。

4. 成功事例:東南アジア出身者が戦力化している整備工場の取り組み

具体的な指導方法・言語サポート

ある地方のディーラーでは、ベトナム人・フィリピン人あわせて11名の実習生を受け入れ、大きな成果を上げています。

社内では反対の声もありましたが、独自のマニュアルや日本語教育プログラムを整備し、「半年間は車検整備に特化して教える」など段階的な指導で対応しました。

このように、整備作業を段階的に学ばせ、日本語が不自由でも理解できるよう図解マニュアルやジェスチャーも併用することで、習得スピードが大幅に向上しました。

現地理解が指導効率を高めた実例

愛知県の野村自動車では、インドネシア人技能実習生を受け入れ、文化や宗教への理解を深めたうえで生活面でもきめ細かくサポートしました。

ごみ出しルールや食文化の違いを丁寧に伝えることで、生活トラブルを未然に防ぎ、定着率を高めました。

また、通訳スタッフの協力により、整備作業中の細かなニュアンスも誤解なく伝えることができ、顧客対応にも支障が出なかったとのことです。

別の整備工場では、技能実習を終えたフィリピン人が特定技能ビザで再来日し、即戦力として活躍しています。

彼らはかつての経験を活かし、整備現場でリーダー的役割も担っており、日本人スタッフとの信頼関係も築かれています。

5. まとめ:東南アジア理解が“人材不足解消”の第一歩

日本の整備業界において、東南アジアからの外国人材は、まさに貴重な戦力となり得ます。各国の整備業事情を理解し、その背景にある教育制度や文化的特性を把握することで、採用・育成の精度が高まります。

言語や生活習慣の違いに最初は戸惑うかもしれません。しかし、事前の準備と柔軟な対応があれば、多くの課題は乗り越えられます。

また、彼らのまじめで前向きな姿勢は、日本人スタッフにも良い刺激となり、職場全体の活性化につながるでしょう。

「技術×文化」の両輪で人材を育て、共に働く仲間として信頼関係を築いていくことが、これからの整備業界に必要な姿勢です。

相手を知り、違いを尊重しながら協力し合うこと。それが、人材不足を乗り越えるための第一歩なのです。

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