ー 目次 ー
1.はじめに:自動車整備業界の現状と課題
日本の自動車整備業界は、国内に約9万2千拠点・従事者54万人超を抱える重要な産業であり、年間約5.7兆円規模の市場です (自動車整備業界の基本 – 工場数と従事者(2024年最新版)|Seibii) 。しかし近年、この市場規模は伸び悩んでいます。統計によれば、整備業の総売上(総整備売上高)は2006年に約6兆945億円のピークを記録した後減少に転じ、2022年には約5兆7,388億円まで縮小しました。2006年から2022年までの平均成長率は年▲0.34%と微減傾向で、整備需要の停滞が示唆されています。
自動車整備業の市場規模推移(総整備売上高)。2006年をピークに長期的に横ばいから微減傾向となり、近年は約5.7兆円規模で推移 (自動車整備業界の動向およびM&Aについて〖2025年版〗 – M&A・事業承継なら経営承継支援)
こうした背景には、新車販売台数の伸び悩みや車の品質向上による整備需要の低下、「若者の車離れ」などの構造要因が指摘されています。
一方で市場規模は大きく、自動車保有台数自体は2020年代前半まで増加を続け約8,200万台に達しています。つまり整備需要そのものは一定量存在するものの、一工場あたりの売上が伸びにくい環境が続いているのです。
こうした停滞期を迎える中、経営者に求められるのは既存事業の効率化とともに、新たな収益源を確立する「多角化戦略」です。
以下では、まず「自動車整備業だけで経営が成り立つケースと条件」を整理し、次に整備業とシナジー(相乗効果)を得られる具体的な業種、そして多角化の成功事例3選を紹介します。最後に、これからの自動車整備業の将来像と業界構造の変化について展望し、経営者が取るべき戦略を提言します。
2.自動車整備業“専業”のみで経営が成り立つケースと条件
自動車整備業を主業とし、他事業に頼らずに経営を成り立たせている事業者(いわゆる専業整備工場)は、日本全国に数多く存在します。全認証工場約9.2万拠点のうち実に6割超にあたる約5.66万拠点が、売上の過半を整備事業で占める専業工場です。
以下の表に見るように、残りは兼業工場(ガソリンスタンド等含む)が約1.56万拠点、自動車ディーラー系列の整備拠点が約1.62万拠点、バス・タクシー会社など自社車両のみ整備する工場が約3,500拠点となっています。専業工場が多数派であることは、「整備業だけでも経営を維持できるケース」が決して珍しくないことを示しています。
区分 | 工場数(事業場数)1 |
専業整備工場(整備売上比率 > 50%) | 56,620拠点 |
兼業整備工場(整備売上比率 < 50%、ディーラー除く) | 15,554拠点 |
ディーラー整備拠点 | 16,173拠点 |
自家整備拠点(自社保有車両の整備) | 3,502拠点 |
計(総認証工場数) | 91,849拠点 |
では、こうした専業の整備工場が単独事業で収益を維持できる条件とは何でしょうか。第一に挙げられるのが、定期整備需要の確保です。日本では車検(継続検査)が新車登録3年後以降は2年ごとに義務化されており、この車検整備は全整備売上の約4割を占める主要サービスです。
車検は法定需要であるため景気に左右されにくく、地域の車両保有台数に応じてコンスタントな需要が見込めます。特に自社で車検を完結できる「指定工場」の資格を持つ工場であれば、陸運支局に持ち込まず工場内で検査を完了できるため、ユーザーにとって利便性が高く選ばれやすい利点があります。そのため地域の車検需要を着実に取り込み、リピーター顧客を確保できている工場は、整備専業でも安定収益を得やすい傾向にあります。
第二に、高効率・高付加価値のサービス提供も重要な条件です。整備専業は収益が整備作業そのものに依存するため、一件あたり作業単価や作業効率が経営を左右します。
例えば、近年全国展開している「○○車検」(短時間・低価格車検)フランチャイズに加盟する工場では、標準化された短時間整備で月間車検台数を大幅に増やし、安価ながら量を捌くことで利益を確保するモデルを実現しています。
他にも高級車・輸入車に特化して専門知識を武器に高付加価値整備を行う工場や、エンジンチューニング等ニッチ需要に応えることで熱心な固定客を持つ工場など、差別化によって収益性を高めている例もあります。
もっとも、専業整備工場の経営環境は総じて厳しく、平均的な利益率は低水準です。ある調査では、2018年度の整備業全体の営業利益率はわずか0.9%と報告されています 。
地域に根ざした小規模工場ほど人件費や設備費の負担が重く、一台あたり数万円程度の整備代では量をこなさなければ十分な利益を上げにくいのが実情です。そのため、経営を維持するには一定の台数規模の顧客を抱えることとコスト管理の徹底が不可欠です。幸い、国内の車両数自体は長年増加傾向にあり一工場あたりの担当車両数も微増していますが、それでも一工場あたり平均800~900台程度(推計)に留まり、過当競争の地域も少なくありません ( 認証事業場および指定事業場の推移 | 一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会(JASPA) )。
こうした中で専業を続けるには、地元顧客との強固な信頼関係による固定客化や、地域で数少ない特殊整備(例えば大型車整備など)の受注先になるといった独自の強みが必要となるでしょう。
さらに近年では、整備士人材の不足と工場経営者の高齢化も専業経営の持続を脅かす要因です。整備士の有効求人倍率は2022年度で5.02倍と他業種に比べ極めて高く、若手入職者の確保に苦戦する工場が大半です。また帝国データバンクの調査によれば、自動車整備事業者約1.74万社のうち経営者が60歳以上の事業者が57.0%、後継者不在率が59.7%にも達しています (「自動車整備事業者」の倒産、休廃業・解散動向|株式会社 帝国データバンク[TDB])。
その結果、人手不足や後継者難から廃業・解散に追い込まれる工場も増加傾向で、2020年には倒産・休廃業が年間418件と過去最多を記録し、2024年もそれを上回るペースとなっています。このように、「整備だけでは食べていけない」という声が現場で聞かれ始めているのが現状です 。
経営を長期安定させるには、専業であっても新たな収益源を模索し、経営基盤を強化する取り組みが不可欠になりつつあります。
3.整備業とシナジーを得られる業種の具体例
自動車整備業界の経営者が多角化を検討する際、本業とのシナジー(相乗効果)が高い周辺事業から着手するのが定石です (自動車業界の多角化(コングロマリット)経営)。では、整備業と相性が良い具体的な業種にはどのようなものがあるでしょうか。以下、代表的な例を挙げます。
- 自動車販売業(中古車・新車ディーラー):自動車の販売と整備は切っても切れない関係です。新車ディーラーは販売した車両の点検・車検整備をアフターサービスとして担いますし、整備工場が中古車販売に乗り出すケースも増えています。本業で培った車両知識や顧客基盤を活かし、顧客に車両の買い替え提案ができる点でシナジーがあります。実際に近年、新車ディーラー各社は「車両販売で利益を出すのではなく、販売後の整備で収益を回収する」ビジネスモデルに移行しつつあると言われるほど、整備サービスを収益の柱と位置付けています。
- 一方、中古車販売店側も整備事業への参入を進めており、大手中古車チェーンが自前の整備工場を併設したり、独立系整備工場を買収する動きも活発です。
- カー用品販売業(部品・アクセサリーショップ):タイヤやオイル、カーナビ等のカー用品販売と整備サービスの相乗効果も大きいです。カー用品大手チェーンの例では、来店客に対しその場での取付け・交換作業や点検サービスを提供し、部品販売と工賃収入の両方を得ています。例えば業界大手のオートバックスでは、中期経営計画で「整備事業の強化」を掲げ、車検・整備サービスに注力する方針を打ち出しました。これは、カー用品販売だけでなく総合的なカーケアサービス企業へ転換を図る戦略と言えます。実際、カー用品店の中には中古車販売や鈑金塗装、保険代理店業まで手掛けているところもあり、総合力でユーザーのカーライフ需要を囲い込んでいます。
- ガソリンスタンド(サービスステーション):ガソリンスタンド業界も燃料販売の伸び悩みを補完するため、整備・車検サービスへのシフトを加速しています。大手石油元売各社は「○○車検」「○○オートサービス」等のブランドで直営・特約SSに整備事業を展開し、国家資格整備士が常駐するスタンドを増やしています。給油や洗車で訪れる顧客に点検・整備を訴求でき、スタンド側は既存設備を活用して副収入を得られるメリットがあります。料金もディーラーより割安なケースが多く、ユーザーから見ても「燃料補給ついでに整備ができて便利・安い」という利点があるため、一定の市場を獲得しています。事実、車検整備売上全体に占めるガソリンスタンド・カー用品店等の「兼業」事業者の売上比率は約19%とも推計され、無視できない存在です。整備専業者にとっては競合でもありますが、自社でスタンド経営に参入したり提携することで相乗効果を得られる余地もあるでしょう。
- 損害保険代理業:整備工場が自動車保険の代理店資格を取得し、保険募集や事故受付を行うケースも多く見られます。修理入庫のきっかけとなる自動車事故では保険対応が必要になるため、整備工場が保険手続きを代行すればワンストップサービスとなり顧客満足度が向上します。また保険会社から修理工場の紹介を受ける経路も期待できます。実際、民間整備工場の約3割以上が何らかの形で損保代理店業務を兼営しているとのデータもあり(※出典:全国自動車整備共同組合連合会調査)、保険手数料収入が整備収益を補完する役割を果たしています。
- 鈑金・塗装業(車体整備):自動車事故時の外装修理や塗装を扱う鈑金業との親和性も高いです。一般に、機械系整備工場は鈑金塗装設備を持たない場合が多く、事故車は提携の鈑金工場に外注することが一般的です。しかし整備工場自ら板金塗装部門を持てば、事故対応を一貫して請け負えるため売上の取りこぼしが減ります。近年はフレーム修正機やブースなど設備投資負担が大きいため、地域の整備工場同士で協業して共同利用する例や、逆に鈑金専門業者が機械整備士を雇用して「車検のできる鈑金工場」へ転身する例もあります。事故修理のトータルサービス提供は顧客利便性が高く、紹介顧客の融通など他社との連携によるシナジー創出も可能です。
- その他周辺サービス:このほか、コーティングやカーフィルム施工等のカーケアサービス、ロードサービス(レッカー)事業、中古部品のリサイクル販売、さらにはレンタカー・カーシェア事業なども整備業との相性が良い事業です。例えば整備工場が自社でレンタカーを保有すれば、車検整備中の「代車」として顧客に提供しつつ、空いている時は一般に貸し出して収益化できます。同様に、故障車のレッカー移動サービスを手掛ければ、自社工場への入庫誘導にもつながります。要するに、「クルマの困りごとをワンストップで解決できる存在」になることが、多角化における理想形と言えます。
以上のように、自動車整備業に関連する周辺業種は多岐にわたります。実際、現在の整備市場では独立系の町工場だけでなく、前述のディーラー、中古車販売チェーン、ガソリンスタンド、カー用品店、格安車検チェーンなど様々な業態がひしめき競合しています 。
裏を返せば、整備事業者がそれら異業種のビジネスに乗り出すことで新たな顧客層や収益源を取り込める可能性も大いにあるということです。自社の経営資源や地域特性を見極め、最もシナジー効果が期待できる分野から順次多角化を進めることが、持続的成長へのカギとなるでしょう。
4.多角化の成功事例3選 ~実際の企業に学ぶ~
次に、自動車整備業の多角化戦略に成功した国内企業の事例を3つ紹介します。それぞれ業態は異なりますが、いずれも本業と周辺事業との相乗効果を上手く活かすことで業績を伸ばした例です。自社戦略検討のヒントとして参考にしてください。
事例①:イエローハット – カー用品店から総合カーライフ企業へ展開
業界大手のカー用品チェーン「イエローハット」は、多角化戦略の成功例として真っ先に挙げられます。同社はもともとタイヤやオイル等のカー用品小売が主力でしたが、全国の店舗にピットを備え車検・整備サービスを提供する体制をいち早く構築しました。また近年ではオートバイ用品店「2りんかん」の買収や、中古カー用品の販売事業にも進出し、事業の裾野を広げています (イエローハット成長の軌跡〜カー用品店から社会貢献企業へ)。
こうした積極策の一方で、かつて手掛けた海外展開などの多角化が失敗し業績悪化を招いた反省から、現社長の下で国内の主力事業に経営資源を集中させる改革も行われました 。
その結果、同社は2008年以降V字回復を遂げ、直近では12期連続増収・過去最高益更新という快挙を成し遂げています 。
2023年3月期の売上高は約1,466億円、営業利益144億円(利益率約10%)と、売上規模で上回る競合オートバックスを利益面で凌ぐ水準に達しています。
国内店舗数も約750店(2023年時点)とカー用品業界トップで、フランチャイズ展開により地方の中小整備工場とも広く提携しています。イエローハットの成功要因は、カー用品販売×整備サービスの相乗効果を最大化しつつ、不採算事業を整理して本業にリソースを集中した戦略にあります。
「変に手を広げず、お客様の車に関わることに徹する」という堅実かつ的確な多角化により、衰退市場でも成長を実現した好例と言えるでしょう。
事例②:オートバックス – M&Aで事業領域を拡大
カー用品業界でもう一社、多角化戦略が注目されるのが「オートバックスセブン」です。同社はフランチャイズ展開する「オートバックス」の本部として、カー用品販売に加え車検・整備、車両販売、鈑金塗装など多岐にわたる事業を展開しています。
近年ではその強みをさらに伸ばすため、積極的なM&Aにも乗り出しました。例えば2024年には関西の独立系整備・販売会社である近畿自動車工業を子会社化し、整備ネットワークの強化を図っています。
また2019年には熊本のフランチャイジー企業を買収するなど、加盟店支援を含めたグループ全体の底上げにも注力しています。
オートバックスの多角化成功のポイントは、本業のリテール店舗網を起点に水平展開を進めたことです。全国約600店舗の集客力を整備・車両販売事業に繋げ、部品販売だけでなく車検整備や中古車販売でも顧客を囲い込む体制を整えました。
実際、同社の整備売上は年々伸長し、2018年度には独立系整備工場の合計売上を上回るまでになったとの指摘もあります (2019年版 自動車整備・部品・用品市場の現状と展望)。
もっとも、オートバックスは一時、不動産事業など車と直接関係の薄い領域にも手を広げ経営不振に陥った過去があります。
現在はそうした事業を整理し、「車のトータルサポート企業」としての路線に集中したことで業績が改善しました。このように、自社の強みである店舗網・ブランド力を活かしつつ、M&Aや提携によってサービス領域を拡充した戦略は、多角化の一つの成功モデルと言えるでしょう。
事例③:ENEOS(旧JXTG)– ガソリンスタンドの車検・整備事業転換
燃料販売業からの多角化成功例として、国内エネルギー大手の「ENEOS」を取り上げます。同社は全国に1万2千か所以上のサービスステーション(SS)網を持ちますが、近年その多くを車検・整備サービス併設の「Dr.Drive」ステーションへと転換してきました。
具体的には、整備ピットや検査ラインを設置し、有資格整備士を配置したSSで法定点検や車検、オイル・タイヤ交換などを実施しています。これは、ガソリン需要の減少や電気自動車の普及を見据え、将来に備えたビジネスモデル転換の一環です。
その成果もあり、ENEOSのキーパーソンであるENEOSフロンティア社などでは車検取扱台数を大きく伸ばし、整備子会社単体で年商数百億円規模を売り上げるまでになっています(※同社IR情報より)。同社の成功要因は、全国SS網×整備サービスの強力なシナジーにあります。
既存のSSは立地や設備、人員面で一定の余力があり、そこに付加サービスとして整備を載せることで比較的低コスト・低リスクに収益源を追加できました。
実際、ガソリンスタンドでの車検は「1日車検」などスピード・低価格を武器に利用者を増やしており、整備業界全体でも無視できないシ## これからの自動車整備業の将来像と業界構造の変化 自動車整備業を取り巻く環境は今後、さらなる変化が予想されます。まず自動車技術の進化に対応した業態変革が求められます。近年の自動車には自動ブレーキや車線維持支援など電子制御装置が搭載され、これらを正しく整備するには高度な知識・設備が必要です。
2020年には新たに「特定整備」制度(電子制御装置整備への認証制度)が施行され、分解整備(従来型の機械整備)のみ行ってきた事業者も電子制御系への対応を迫られています。
今後は2024年10月から車載故障診断装置(OBD)検査が車検で義務化される予定であり、電子制御分野の整備需要は一段と増加する見込みです。こうした流れに乗り、いち早く電子制御整備に対応できる「特定整備」認証工場となった事業者は競争優位を得られるでしょう。
一方、対応が遅れると競争力低下は避けられず、新技術への設備投資や人材育成が進まない高齢経営者の街工場では淘汰が進む懸念も指摘されています。
次に、業界構造の変化としては事業者数の減少と集約化が挙げられます。前述のとおり整備工場数は長らく9万拠点前後で横ばいでしたが、近年は後継者難などから年間数百規模で市場退出が増えています (「自動車整備事業者」の倒産、休廃業・解散動向|株式会社 帝国データバンク[TDB])。
特に地域の小規模整備工場(従業員5人以下)が高齢化で廃業し、その顧客がディーラーなど他チャネルへ流れるケースが今後増加するとみられます。
これは整備業界の再編とも言える動きで、大手ディーラー資本やフランチャイズチェーンによるM&A・統合が進む可能性があります。実際、近年は大手中古車販売会社が地域整備工場を買収したり、異業種の資本提携(例:日産東京販売HDとチューニング車販売のGTNETの提携)など、業界の垣根を超えた再編事例も出始めています (自動車整備業のM&A・事業承継事例13選を紹介!手順から積極買収企業まで解説! | M&A・事業承継の理解を深める)。
将来像としては、整備拠点数は減少するものの一拠点あたりの規模や機能は拡大し、「少数精鋭の総合カーケア拠点」が全国をカバーする構図にシフトしていくと考えられます。
また、顧客ニーズや車の所有形態の変化も見逃せません。若年層を中心に「クルマを所有せず必要なときだけ使う」志向が広がり、カーシェアリングやサブスクリプション(定額利用)サービスが浸透しつつあります。この場合、車両管理主体は個人ではなく法人(カーリース会社など)となるため、整備事業者はフリート(車両群)管理ビジネスへの対応力が問われます。
例えば、大手整備チェーンがリース会社と提携して全国のリース車両メンテナンスを一括受託するといった動きも十分考えられます。実際、整備振興会連合会(日整連)は専業整備業者に対し「中古車販売事業」「カーリース事業」「自動車買取事業」への事業拡大戦略を提言しています (自動車整備業界の動向およびM&Aについて〖2025年版〗 – M&A・事業承継なら経営承継支援)。
整備業者がこれら周辺事業に乗り出せば、自社顧客との関係強化や車両入手ルートの確保など将来への布石となるからです。例えば中古車販売であれば、ユーザーのニーズに合った次の一台を提案する際に整備業で得た知見が活きますし、カーリースであれば契約期間中の定期整備を自社で担うことで顧客と長期関係を築き、返却車両も自社整備済の良質在庫として中古車販売に繋げられます。
また買取事業を展開すれば、下取車の整備・商品化を通じて整備工場との相乗効果で収益源を拡大できます (自動車整備業界の動向およびM&Aについて〖2025年版〗 – M&A・事業承継なら経営承継支援)。
新規事業の方向性 | シナジー効果・狙い (自動車整備業界の動向およびM&Aについて〖2025年版〗 – M&A・事業承継なら経営承継支援) |
中古車販売事業 | 整備経験を活かし、顧客に最適な中古車を提案。販売後の整備も自社で請負い収益確保 |
カーリース事業 | 車の継続利用を促し、定期点検やメンテナンスを包括提供。リース満了後の車両は自社中古車在庫に活用 |
自動車買取事業 | 整備履歴の分かる良質車両を仕入れ、中古車販売や部品取りで収益化。整備入庫や顧客紹介との相乗効果 |
最後に、人材確保と働き方改革も将来の重要テーマです。整備士不足に対応するため、業界全体で待遇改善や育成強化が進められています。たとえば国土交通省は高校・専修学校と連携した整備人材育成や、外国人技能実習・特定技能制度の活用促進に乗り出しています (「自動車整備事業者」の倒産、休廃業・解散動向|株式会社 帝国データバンク[TDB])。
各工場レベルでも、柔軟な働き方の導入やIT活用による生産性向上で若手人材の定着を図る動きがみられます。将来の整備業を担うのはデジタルネイティブ世代であり、紙の整備記録簿ではなく電子カルテやオンライン予約を当たり前に使いこなすようになるでしょう。
経営者としては、そうした次世代の価値観に合った職場環境を整備するとともに、自らも新技術にキャッチアップし続ける姿勢が求められます。
5.まとめ:戦略的な多角化で持続的成長を目指す
以上、自動車整備業の多角化戦略について、現状と課題、具体的手法、成功事例、そして将来展望を解説しました。重要なポイントは、本業の強みを活かしつつ収益源を拡げる戦略的多角化を図ることです。冒頭で述べたように「整備だけじゃ食えない」という声が現場から聞こえる今、その答えの一つは間違いなく多角化にあります。
もちろん新規事業にはリスクも伴いますが、幸い整備業には周辺に多くの関連分野が存在し、高いシナジーを期待できます。本稿で取り上げた事例企業に共通するのは、顧客視点でサービス領域を広げ、総合的なカーライフ支援企業へと進化した点です。自社単独で難しければ提携やM&Aも選択肢に入れ、時には業界の垣根を越えてでも事業領域を拡大していく発想が重要でしょう。
停滞期こそ変革の好機です。経営者の皆様には、本業である整備サービスの品質・効率向上に磨きをかけつつ、自社の将来像を見据えた多角化戦略にぜひ挑戦していただきたいと思います。それが地域のお客様の安心・安全なカーライフを末長く支えることにもつながるのです。事業環境が大きく変わるこれからの時代、攻めの経営で新たな価値を生み出し、生き残る——そのためのキーワードが「多角化」であることは間違いありません。

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