外国人技能実習生が日本で生活・仕事をする際、インターネットは情報収集や母国への連絡、オンライン研修などに欠かせないライフラインです。しかし、言語や契約手続きの違い、環境の制約から、思わぬトラブルに直面することが少なくありません。
本記事では、日本で技能実習生をマネジメントする管理職の皆様に向けて、実際に起きた具体的事例を2つずつご紹介しながら、代表的な7つのインターネットトラブルとその解決方法を詳しく解説します。
ー 目次 ー
1. Wi-Fiが遅い/つながらないトラブル
事例1
介護施設の寮に入居したDさんは、夜間のオンライン研修動画を視聴しようとしました。しかし、入寮者全員で共有している光回線の帯域が逼迫していたため、動画が何度も途中で停止して再生できず、研修内容を最後まで確認できませんでした(引用元:ビルポ )
事例2
社員寮の2階に住むEさんは、業務報告メールを作成して送信しようとしましたが、ルーターから離れた場所だったため電波干渉が起こり、アップロード速度が著しく低下した結果、メール送信に30分以上かかってしまいました。そのため社内の提出期限に間に合わず、上司から再提出を求められる事態に陥りました(引用元:マイナビニュース )
対策
- 法人契約の光回線導入:集合寮や社宅には、容量無制限のプランで法人契約を結び、実習生全員で安定的に利用できるようにします。
- Wi-Fi中継機の設置:各居室まで十分に電波が届くよう、中継機(Wi-Fiエクステンダー)を配置して死角を減らします。
- ルーター配置の最適化:ルーターは可能な限り居室近くに設置し、周囲の電波干渉源から離します。
- 定期的な速度テストと障害対応窓口の明確化:速度テストを定期的に実施し、障害時は社内IT担当者が速やかに調査・工事日程を調整できる体制を整えます。
2. スマホの通信制限で連絡が取れないトラブル
事例1
ミャンマー出身のCさんは個人契約のSIMカードでLINEを利用していましたが、月末にデータ容量を使い切り、128kbpsの低速制限にかかってしまいました。その結果、LINEの音声通話が断続的に途切れ、緊急の業務指示を受け取ることができず、現場で孤立する事態になりました(引用元:ミャンマー・ユニティ)
事例2
工場見学の移動中、Fさんは休憩時間に動画視聴を楽しんだために通信量を使い切ってしまいました。現場では上司から添付ファイル付きの詳細な作業指示がメールで送られてきましたが、通信制限下ではダウンロードできず、安全確認が遅延してしまいました(引用元:日本経済新聞)
対策
- 企業名義で大容量/無制限プラン契約:会社契約のSIMを貸与し、必要に応じてギガ無制限プランや大容量プランを選定します。
- 月初の自動リチャージ設定:毎月自動でデータチャージが行われる仕組みを導入し、使用量が上限に達する前に補填します。
- 通信量の見える化:社内ポータルで使用量をリアルタイムに確認できるシステムを整備し、実習生にも節度ある利用を促します。
3. 通話アプリの使い方がわからず孤立するトラブル
事例1
製造業A社に配属されたベトナム出身のGさんは、LINEの既読機能を使った報告方法が理解できていませんでした。その結果、上司からの「はい、確認しましたか?」というメッセージにも既読をつけられず、進捗報告が上司に伝わらないまま作業を続けたため、後から大きな手戻りが発生しました(引用元:関西技術協力センター)
事例2
HさんはWhatsAppのグループ招待リンクを受信したものの、誤ってリンクを削除してしまいました。急遽現場配置が変更されたことを伝えるメッセージを受け取れず、元の現場へ向かったため、部署間で大混乱が生じました(引用元:NHKニュース)
対策
- 母語対応のマニュアル・動画研修:来日前後に、LINEやWhatsAppの基本操作を母語で解説したマニュアルや動画を使ってレクチャーします。
- 定期的な個別フォローアップ:アプリ操作の理解度を定期的に確認し、わからない点を早期に解消します。
- コミュニケーションルールの明文化:使用するアプリ、連絡手段(テキスト/音声/ビデオ)、応答期限を明確に定め、全員に周知します。
4. 高額なインターネット契約・解約トラブル
事例1
ビザ延長を機にIさんが自分名義でスマホ回線を契約しました。しかし帰国準備の際に解約手続きを行うと、契約期間の縛りによる違約金として10万円以上の請求が届き、帰国資金を大幅に圧迫しました(引用元:在ベトナム日本国大使館)
事例2
Jさんはプロバイダーの「初期手数料割引」プランを選択しましたが、割引適用条件を正しく確認しないまま契約してしまいました。解約時に「契約開始から1年未満は違約金が発生する」ことを知らされずに進めた結果、5万円の追加請求を受ける羽目になりました(引用元:消費者庁)
対策
- 受入企業/監理団体名義での一括契約:実習生本人ではなく企業名義で契約を代行し、違約金リスクを企業が管理します。
- 契約前の母語での説明と同意書取得:料金プラン、契約期間、違約金・手数料を日本語と母語で細かく説明し、理解・同意を文書で確認します。
- 解約サポート体制の構築:退寮や帰国時の解約手続きを企業が同行し、手数料交渉や分割払い交渉も支援します。
5. SIMカードに関するトラブル
事例1
インド出身のKさんは、ネットで見つけた格安SIMをオンラインで申し込もうとしました。しかし申し込み時にクレジットカード情報が必須であったため、持参していたカードが利用できず、契約が完了しませんでした。その結果、スマホがまったくつながらない状態になり、母国との連絡もままなりませんでした(引用元:T-MGT Institute)
事例2
Lさんは日本到着後に最新機種を持参したと思っていましたが、実際にはeSIMに非対応の古いモデルでした。キャリアショップでeSIM契約を進めたところ対応機種ではないと判明し、SIMを挿せず通信手段を確保できないまま数日を過ごすことになりました(引用元:ケータイWatch)
対策
- 家電量販店やキャリアショップでの店頭契約推奨:外国人対応窓口や通訳サポートを利用して契約手続きを行います。
- プリペイドSIMの導入:クレジットカード不要で購入・チャージできるプリペイド型SIMを活用し、低リスクで通信を確保します。
- 法人SIMの一括契約:企業契約のSIMを寮や社宅で共有・配布し、Wi-Fiを補完する形で安定した通信を提供します。
6. フリーWi-Fiに関するトラブル
事例1
都市部の公共施設で無料Wi-Fiに接続したMさんは、SSID名が似た偽アクセスポイントに誘導されました。ログイン画面で会社のID・パスワードを入力しそうになりましたが、不審なURLに気づいてIT部門に確認し、未然に情報流出を防ぐことができました(引用元:Internet Watch)
事例2
カフェの無料Wi-Fiを利用していたNさんは、中間者攻撃(MITM攻撃)を受け、クレジットカード決済ページに入力した情報が傍受されてしまいました。後日、銀行から不正利用の可能性があると連絡を受け、本人確認やカード再発行などに多大な時間と労力を費やすことになりました(引用元:JPCERT/CC)
対策
- 正式SSIDの識別方法教育:提供者名や公式サイトの案内と一致しているかを確認する習慣を指導します。
- VPNやモバイルルーターの利用義務化:業務端末は必ず企業VPN経由、または専用モバイルルーター経由で接続させ、通信の暗号化を徹底します。
- 利用自粛ガイドラインと報告フロー整備:業務端末でのフリーWi-Fi使用を原則禁止とし、トラブル発生時には速やかにIT部門へ報告させるルールを定めます。
7. フィッシングメールに関するトラブル
事例1
実習生を狙ったフィッシングメールが業務アカウント宛に大量配信され、受信トレイが偽メールであふれかえりました。そのうち数通は本物そっくりの文面で、リンクをクリックすると社内システムの認証情報を入力させる偽サイトへ誘導されました(引用元:JPCERT/CC)
事例2
最近では日本語だけでなくベトナム語を用いた標的型フィッシングも確認されています。Oさんのもとには「帰国手続きの重要書類」と題したベトナム語の偽メールが届き、誤ってリンクをクリックすると個人情報を抜き取られる危険性がありました(引用元:JPCERT/CC)
対策
- 母語併記の定期啓発教育:不審メールの見分け方(送信ドメインの確認、BCCの有無、一時リンクへの警戒)を日本語と母語の両方で定期的に実施します。
- メールフィルタリング強化:企業メールサーバでスパム・フィッシング検知を強化し、疑わしいメールは自動的に隔離します。
- 不審メール受信時の即時報告ルール:実習生が不審メールを受信した場合の連絡手順をフローチャートで明示し、迅速に対応できる体制を整えます。
まとめ
以上のように、各トラブルは事前の環境整備や契約サポート、教育・運用ルールの整備によって多くを回避でき、万が一発生しても迅速にフォローアップできます。
管理職の皆様には、言葉の壁や文化・手続きの違いに配慮しつつ、技能実習生が安心してインターネットを活用できる環境を整備していただければ幸いです。

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