ー 目次 ー
1.はじめに
永住権を持つ外国人(永住者)を雇用する企業が増えています。永住者は在留期間・就労制限がなく、ビザ更新の手間も不要であることから、中長期的な雇用安定と業務効率化を実現可能です。
本記事では、日本における永住権の基礎から、取得方法、帰化・定住権との違い、最新の推移データ、さらに採用担当者が押さえるべき具体的なメリットと事例を紹介し、実践的な対策を解説します。
2.日本における永住権とは
永住権とは、外国籍のまま在留資格「永住者」として日本国内に制限なく無期限で滞在できる権利です。主な特徴は以下の通りです。
- 在留期間更新不要:一度許可を得ると更新手続きが不要となり、煩雑なビザ申請業務を削減できます。
- 就労活動の無制限:就労制限のない全ての業務に従事可能で、企業が求める仕事内容の幅を制限しません。
- 社会保障・福利厚生の利用:健康保険、厚生年金、雇用保険など日本人と同等に加入でき、生活基盤の安定につながります。
- 公的支援や住宅ローン利用:自治体による各種支援や住宅ローン審査で有利になるケースがあります。
ただし、日本国籍を取得するわけではないため参政権はなく、公務員就任には制限がある点に留意が必要です。
3.永住権を取得する方法
永住権の申請では、以下の要件を一般的にクリアする必要があります。
- 在留歴要件:通算在留10年以上、直近5年は継続在留。日本人配偶者や定住者、難民認定者は要件短縮。
- 経済的基盤:収入・納税実績があり、生活費を自力で賄えること。
- 素行善良:法令違反歴がなく、地域社会への適合性が高いこと。
- 公益的貢献:ボランティア活動や専門的技術による貢献が評価される場合もあります。
最近は高度専門職ポイント制度による加算で在留要件が「1年」に短縮されるケースも増加しています。申請から許可まで通常6ヵ月程度かかり、許可率は50~60%前後です。
審査許可率の推移は以下の通りです(法務省出入国在留管理庁データより引用)。
年度 | 既済件数 | 許可件数 | 許可率 |
---|---|---|---|
2015年 | 56,182件 | 39,820件 | 70.9% |
2016年 | 52,819件 | 35,679件 | 67.5% |
2017年 | 50,907件 | 28,924件 | 56.9% |
2018年 | 61,027件 | 31,526件 | 51.7% |
2019年 | 56,902件 | 32,213件 | 56.6% |
2020年 | 57,570件 | 29,747件 | 51.7% |
4.永住権と帰化の違い
帰化は日本国籍を取得し参政権を得る手続きで、永住権取得より要件が厳格です。帰化要件には「連続在留5年以上」「日本語能力」「生活基盤」「本国籍離脱意志」などが含まれ、戸籍や身分関係の審査も加わります。
一方で永住権取得後は就労制限がなくおすすめですが、国籍は保持されないため、永住権のメリット・デメリットを理解し、適切な選択が重要です。
5.永住権と定住権の違い
定住者は「日本人の祖父母等」や「元日本国籍者」に与えられる在留資格で、更新手続きは必要ですが就労制限はありません。
永住者は更新不要・無期限滞在が可能で、法的安定性と企業の人事運用を考慮すると上位資格です。
定住者には一部公的手続きや書類再提出などが残る場合があります。
6.永住者数の推移(2000年~2025年)
以下は、法務省出入国在留管理庁「在留外国人統計」に基づいた永住者数の推移です。
年度末 | 永住者数 |
---|---|
2000年 | 145,336人 |
2005年 | 289,298人 |
2010年 | 418,305人 |
2015年 | 545,789人 |
2020年 | 677,019人 |
2025年 | 782,567人 |
出典:法務省出入国在留管理庁「在留外国人統計」
このデータから、2000年の約14.5万人から2025年の約78.2万人へと、永住者数が約5.4倍に増加していることがわかります。これは、日本における外国人の定住化が進んでいることを示しており、企業にとって永住者の採用がより重要になってきていることを意味します。
7.永住者採用のメリット
(1) 長期安定雇用による育成効率化
永住者は在留資格更新が不要であり、契約更新や異動を見据えた研修プランが立てやすく、人材育成のROI向上に寄与します。
(2) ビザ手続きコストの削減
永住者は在留資格更新や変更手続きを行う必要がなく、専門家委託コストや人事部門の工数を年間数十万円以上削減できます。
(3) シフト・労働時間の自由度向上
留学生をはじめとした就労制限付き在留者と異なり、時間制限がないため繁忙期のシフト対応や早朝・深夜などの柔軟配置が可能です。
(4) 多様性推進と企業イメージ向上
母国文化の長期経験を持つ永住者は、異文化理解促進やチームの多様性強化につながります。ダイバーシティへの取り組みは採用ブランディングにもプラスとなります。
(5) 社会的信用の高さ
永住者は社会的な信用度が高く、金融機関との取引や公的手続きで日本人と同様に扱われるため、信頼性の高い人材として活用できます。
8.事例紹介:永住者採用で成果を上げた企業事例
8-1.物流業・人材派遣業:株式会社ODKスタッフ
株式会社ODKスタッフは、物流センター向けの人材派遣を行う企業で、永住者の採用を強化するために求人媒体「Guidable Jobs」を活用。
永住者向けの求人情報を掲載し、わずか数ヵ月で50名以上の採用に成功しました。
導入の背景には「就労時間の制約がない人材を安定的に確保したい」という課題がありました。
同社では、作業工程を簡略化し、やさしい日本語でマニュアル化することで教育コストを30%削減。
さらに、採用から5ヵ月での定着率は85%を超えるなど、高い成果を上げました。
<対策>
- 在留資格フィルター機能で永住者に絞った募集を展開
- 多言語マニュアルと動画研修を整備し、教育時間を短縮
- 定期的な1on1面談と生活支援相談窓口の設置によるフォローアップ
8-2.警備業:木口総建株式会社
東京を拠点に交通誘導や施設警備を行う木口総建株式会社も、永住者の採用で顕著な成果を上げています。
同社は、外国人材の採用における課題として「言語の壁による教育効率の低下」「勤務シフトの制約」を抱えていましたが、永住者を積極的に雇用することでこれらを解消しました。
特に、永住者の語学力や自主性を活かし、多国籍チームによる現場改善提案が実施され、導入後1年で顧客満足度が前年比20%向上しました。
<対策>
- 警備マニュアルにイラストと多言語表記を追加
- 教育担当を日本人と永住者の混成チームで編成し、OJTを強化
- 定期ミーティングによる意見交換を通じ、現場改善のPDCAを確立
(出典:Guidable Jobs事例|木口総建)
このように、永住者の採用は「人材の安定確保」「教育効率の改善」「現場力の強化」において非常に有効であり、すでに多くの企業がその効果を実証しています。
9.人事担当者のためのチェックリスト
- 求人票に「永住者歓迎」「ビザ手続き不要」など採用条件を明記
- 応募者管理システムに在留資格フィルターを設定し、永住者を優先抽出
- 面接案内やFAQを多言語対応とし、永住者の応募ハードルを低減
- 入社後研修で多言語マニュアル・動画教材を用意し、教育コストを削減
- 定期1on1面談・生活支援プログラムを計画し、早期離職防止を実現
10.よくある質問(FAQ)
-
Q1.永住者と特別永住者はどう違いますか?
→ 特別永住者は戦後在日韓国・朝鮮人等の歴史的背景を踏まえた在留資格で、永住権とは別枠です。 -
Q2.永住者の採用時に必要な書類は?
→ 在留カードの【永住者】表記の確認、パスポート、課税証明書、在職・内定証明を用意。 -
Q3.永住者採用で注意すべき法令遵守事項は?
→ 雇用契約書の作成・保管、在留カード写しの管理、半期ごとの在留資格確認を徹底。 -
Q4.永住権を持つ家族を同時に雇用できますか?
→ 家族の在留資格も「永住者」であれば同様の条件で採用可能です。 -
Q5.外国人雇用助成金は永住者にも適用されますか?
→ はい。永住者は日本人と同様の被保険者扱いのため、各種助成金への申請が可能です。
11.最終まとめ:明日からできるアクション
-
求人媒体に永住者歓迎文言を掲載し、ターゲット層にリーチ
永住者に向けたメッセージを求人票や採用ページに明記することで、該当者からの応募が増加します。 -
在留資格確認フローを社内で共有し、法令遵守を徹底
在留カードの確認・管理の手順を明文化し、採用担当以外の部門とも共有しておくことが重要です。 -
マニュアルと研修プランを多言語化し、教育投資を最適化
「やさしい日本語」や母語対応のマニュアル、動画などを用意し、教育負荷とコストの両方を軽減できます。 -
キャリア面談と生活サポートを組み合わせ、定着支援制度を構築
「働きやすさ」と「暮らしやすさ」を両面から支援する制度は、永住者の離職率を大幅に抑える鍵となります。 -
採用KPIを設定し、効果を数値管理・経営層へ報告
定着率、研修期間、生産性などの指標をKPIとして定義し、永住者採用の効果を数値で見える化しましょう。
まとめ:永住者採用は今後の人材戦略の鍵
永住者採用は単なる人手不足の対策ではなく、企業の多様性強化・長期的成長に資する戦略的取り組みです。
事例にも見られるように、教育投資の効率化や職場の改善、新たな組織風土の形成といった成果も期待でき、さらに企業ブランドの向上にもつながります。
この記事を参考に、ぜひ貴社でも永住者を活かす具体的なアクションを始めてみてください。

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