1.はじめに
自動車整備士の減少と魅力の低下
日本の自動車整備士の数は年々減少しています。国土交通省の資料によると、整備士の平均年齢は上昇傾向にあり、若年層の参入が減少しています 。
この背景には、賃金の低さや労働環境の厳しさが影響していると考えられます。特に中小企業では、整備士の確保が難しくなっており、業界全体の課題となっています。
2.日本の自動車整備士の賃金の現状
全体的な平均年収の推移
日本の自動車整備士の平均年収は、近年上昇傾向にあります。日本自動車整備振興会連合会の「自動車特定整備業実態調査結果」によると、2023年度の整備要員の平均年収は417.3万円で、前年度から約12.9万円(3.2%)増加しています 。自動車整備士求人ナビ メカジョブ+3Jaspa+3goodjob-navi.com+3
また、厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によれば、自動車整備士の平均年収は487.6万円であり、全産業平均の457.6万円を上回っています 。Clutch Job
勤務先による賃金差
自動車整備士の賃金は、勤務先によって大きく異なります。特に、ディーラーと民間整備工場では顕著な差が見られます。オートモーティブ・ジョブズ(AJ)+3オートモーティブ・ジョブズ(AJ)+3カーワク+3
勤務先 | 平均年収(万円) |
---|---|
ディーラー | 489.9 |
民間整備工場 | 378.3 |
出典:日本自動車整備振興会連合会「令和5年度 自動車特定整備業実態調査結果」 自動車整備士求人ナビ メカジョブ+3オートモーティブ・ジョブズ(AJ)+3goodjob-navi.com+3
ディーラーで働く整備士の年収は、民間整備工場の整備士よりも約110万円高いことが分かります。これは、ディーラーがメーカー直営または特約店であり、安定した収益基盤や福利厚生が整っているためと考えられます。自動車整備士求人ナビ メカジョブ+4オートモーティブ・ジョブズ(AJ)+4オートモーティブ・ジョブズ(AJ)+4カーワク
年齢別の賃金傾向
自動車整備士の年収は、年齢とともに増加する傾向があります。以下は、年齢別の平均年収です。カーワク
年齢層 | 平均年収(万円) |
---|---|
20代 | 389 |
30代 | 495 |
40代 | 544 |
50代 | 542 |
60代 | 393 |
出典:日本自動車整備振興会連合会「自整業の経営・給与データブック」 カーワク
年齢とともに年収が増加する傾向が見られますが、60代になると減少する傾向があります。これは、定年後の再雇用やパートタイム勤務など、働き方の変化が影響していると考えられます。
資格と役職による賃金の違い
自動車整備士の賃金は、保有する資格や役職によっても異なります。例えば、一級自動車整備士の平均年収は約450万円であり、二級整備士よりも高い傾向があります 。また、工場長や整備主任者などの役職に就くことで、役職手当が加算され、年収が増加します。X-Work自動車整備士求人ナビ メカジョブ
3.日本以外の先進諸国の自動車整備士に対する賃金の現状
日本の自動車整備士の平均年収は約426万円とされていますが、他の先進国ではどのような状況なのでしょうか。以下に、アメリカ、ドイツ、イギリス、オーストラリアの自動車整備士の平均年収を示します。
国名 | 平均年収(万円) | 出典 |
---|---|---|
アメリカ | 584.8 | :contentReference[oaicite:11]{index=11} |
ドイツ | 628.5 | :contentReference[oaicite:12]{index=12} |
イギリス | 714.0 | :contentReference[oaicite:13]{index=13} |
オーストラリア | 770.0 | :contentReference[oaicite:14]{index=14} |
この表から、日本の自動車整備士の平均年収は他の先進国と比較して低いことがわかります。特にオーストラリアでは、日本の約1.8倍の年収となっています。
各国の詳細な賃金状況
アメリカ
アメリカの自動車整備士の平均年収は約58,477ドル(約584.8万円)であり、経験や地域によって異なります。例えば、カリフォルニア州やアラスカ州では、平均年収が60,000ドル(約600万円)を超えることもあります。また、ディーラーでの勤務や専門的な資格を持つ整備士は、さらに高い収入を得る傾向があります。Talent.com
ドイツ
ドイツの自動車整備士の平均年収は約42,800ユーロ(約628.5万円)であり、地域や経験年数によって差があります。例えば、ミュンヘンでは平均年収が50,109ユーロ(約735.8万円)と高く、地方都市ではやや低めとなっています。また、ドイツでは職業訓練制度が整備されており、資格取得後のキャリアパスが明確であることが特徴です。
イギリス
イギリスの自動車整備士の平均年収は約37,738ポンド(約714.0万円)であり、地域や勤務先によって異なります。例えば、ロンドンやマンチェスターなどの都市部では、平均年収が40,000ポンド(約756.0万円)を超えることもあります。また、イギリスでは自動車整備士の需要が高く、特に電気自動車やハイブリッド車の整備に対応できる技術者が求められています。
オーストラリア
オーストラリアの自動車整備士の平均年収は約82,029オーストラリアドル(約770.0万円)であり、地域や経験によって差があります。例えば、シドニーやメルボルンなどの都市部では、平均年収が90,000オーストラリアドル(約845.0万円)を超えることもあります。また、オーストラリアでは自動車整備士の資格取得が義務付けられており、資格を持つ整備士は高い評価を受けています。
4.なぜ日本が安いのか?
日本の自動車整備士の賃金が先進諸国と比較して低い理由は、以下のような複数の要因が複雑に絡み合っています。
(1) 労働生産性の低さ
日本の労働生産性は、OECD加盟国の中でも低い水準にあります。2023年度のランキングでは、1人あたり877万円で、38カ国中32位となっています。この低い労働生産性が、賃金の低さに直結しています。
労働生産性が低い理由としては、以下の点が挙げられます。
- 付加価値を生み出す力の弱さ:同じ価値を生み出すために、日本では多くの労働者や時間が必要とされ、結果として生産性が低くなっています。
- 長時間労働の文化:「長時間働くことが美徳」とされる風潮が根強く、効率よりも労働時間が重視される傾向があります。
- 実情と評価制度のズレの問題:人口ピラミッドが崩れ、経済成長が止まったにも関わらず、年功序列の給与体系が根強く、成果主義に基づく評価制度が十分に導入されていません。そのため、労働者のモチベーションが低下しやすい状況にあります。
これらの要因が相まって、労働生産性の向上が難しくなっており、結果として賃金の上昇も抑制されています。
(2) 労働分配率の低下
日本では、企業の利益が労働者に十分に還元されていない傾向があります。厚生労働省の報告によれば、労働分配率の低下が一人当たり賃金の減少に寄与しているとされています。
具体的には、企業が得た利益を設備投資や内部留保に回す傾向が強く、労働者への報酬として分配される割合が減少しています。これにより、労働者の賃金が上がりにくい構造が形成されています。神戸大学
(3) 社会的評価の低さ
自動車整備士は、社会にとって必要不可欠な職業であるにもかかわらず、その社会的評価は高くありません。「重労働で給料も安い」という先入観が根強く、若者がこの職業を選択しにくい状況が続いています。
また、整備士の仕事は専門的な知識と技術を必要とするにもかかわらず、その価値が十分に認識されていないため、賃金水準も低く抑えられがちです。
(4) 労働組合の弱体化
日本では、労働組合の組織率が低下しており、賃金交渉力が弱まっています。これにより、労働者が賃金の引き上げを求める声が企業に届きにくくなり、賃金の上昇が抑制されています。
また、非正規雇用の増加も賃金交渉力の低下に拍車をかけており、全体的な賃金水準の上昇を妨げる要因となっています。
(5) 円安の影響
現在、世界の情勢の変化により、為替が円安へと移行しており、海外との賃金格差に拍車をかけています。
5.今後の自動車整備士の賃金について
日本の自動車整備士の賃金は、近年、微増傾向にありますが、他の先進国と比較すると依然として低い水準にあります。今後、賃金がどのように推移するのか、以下の要因を踏まえて考察します。
1. 人手不足の深刻化と賃金上昇圧力
自動車整備士の人手不足は深刻化しており、有効求人倍率は全産業平均の4倍以上と高い水準で推移しています。
このような人手不足は、賃金上昇の圧力となっています。特に、若年層の整備士確保が難しい中、企業は賃金を引き上げて人材を確保しようとする動きが見られます。
2. 技術革新への対応と専門性の向上
自動車業界では、電気自動車(EV)や自動運転技術の進展により、整備士に求められるスキルが高度化しています。これに対応できる整備士は希少価値が高くなり、賃金の上昇が期待されます。
また、2027年1月1日には、電子制御装置整備に関する新たな資格制度が導入される予定であり、これに対応できる整備士の需要が高まることが予想されます。
3. 労働環境の改善と賃金の底上げ
近年、整備業界では働き方改革が進められており、労働時間の短縮や週休二日制の導入など、労働環境の改善が図られています。
これに伴い、賃金の底上げも進められており、整備士の処遇改善が期待されます。
4. 将来的な賃金の見通し
上記の要因を踏まえると、今後、自動車整備士の賃金は緩やかに上昇していくと予想されます。
特に、技術革新に対応できる高度なスキルを持つ整備士や、労働環境の改善に取り組む企業で働く整備士の賃金は、他の整備士と比較して高くなる傾向が強まるでしょう。
6.まとめ
本記事では、日本の自動車整備士の賃金の現状と、先進諸国との比較、そして将来の展望について詳しく解説してきました。
現状の課題
• 平均年収の低さ:日本の自動車整備士の平均年収は約426万円で、他の先進国と比較して低い水準にあります。
• 人手不足の深刻化:若者の車離れや少子高齢化により、自動車整備士の人材不足が深刻化しています。
• 労働環境の課題:長時間労働や休日出勤が多く、労働環境の改善が求められています。
将来への展望
• 技術革新への対応:電気自動車や自動運転技術の進展により、整備士に求められるスキルが高度化しています。
• 賃金の上昇傾向:人手不足や技術革新に対応できる人材の需要増により、賃金の上昇が期待されています。
• 労働環境の改善:働き方改革の推進により、労働環境の改善が進められています。
自動車整備士の賃金や労働環境の改善は、業界全体の課題であり、経営者の皆様の取り組みが重要です。今後も、技術革新や社会の変化に対応しながら、魅力的な職場環境を整備することが求められます。

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