1.はじめに
オンライン申請の開始
日本の技能実習制度では、2023年から外国人技能実習生の在留資格(在留カード交付、資格変更・更新など)の手続きがオンラインでも行えるようになりました。
出入国在留管理庁が外国人向けに在留申請のオンライン受付を始めたことで、JITCO(国際人材協力機構)も2023年1月26日から技能実習生の入国・在留申請に関する「オンライン申請点検・取次」サービスを開始しています。
従来、入国・在留手続は入管窓口や郵送でしたが、24時間365日パソコンやスマホで申請できるようになり、行政手続の大幅なデジタル化が進みました。
現場の現状と課題
一方で、技能実習制度そのものはこれまで紙・対面中心で運用されており、書類作成や監査・指導にも手間がかかっていました。
しかし近年の働き手不足やコロナ禍を契機に「デジタル化(DX)」の必要性が高まり、制度全体の見直しとIT化が注目されています。
経営者にとっても、業務の効率化やミス防止、若手外国人材とのコミュニケーション促進を期待して、オンライン化・デジタルツールの導入が大きな課題となっています。
2.デジタル化の背景と政府の方針
技能実習生の増加
技能実習生の数は増加傾向にあり、2014年に約14.5万人だった受入れ数は2020年には40万人超(2023年までには約41万2千人)に達しています。
こうした規模拡大に伴い、監理団体や受入企業の事務負担も増大しており、従来の紙・FAX・対面といった業務スタイルでは限界が指摘されています。
政府によるIT化の方針
このため、政府は技能実習制度の手続きをIT化・オンライン化する方針を明示しています。
2023年6月の規制改革推進会議では「技能実習制度を含む手続のオンライン化検討」が盛り込まれ、制度設計が固まる段階でシステム構築を検討するとしています。
実際、厚生労働省・入管庁ともに、在留申請以外の手続きも順次デジタル対応を進めていく予定です。
中小企業庁の調査によれば、2023年時点でも多くの中小企業がIT活用初期段階ですが、5年前よりも「かなり進んでいる」と答える企業は約7割に達しており、今後のシステム投入に向けた準備が進んでいます。
3.デジタル化した内容
デジタル化によって技能実習制度で利用できるようになった主なサービス・手続は以下の通りです。
在留資格申請のオンライン対応
2023年1月から、在留資格認定証明書交付申請や在留期間更新・変更許可申請をオンラインで行えるようになりました。
従来は窓口・郵送対応だった在留申請が、パソコンで申請可能となり、審査結果もメール受取ができるなど手続きが大幅に簡略化しました。
監理団体許可等の電子申請
監理団体の許可申請や変更届などについては現在も紙ベースですが、政府の方針では今後オンライン化が検討されています。
これまで監理団体は書類の束を労働局に持参していましたが、設計が決まり次第、オンライン申請が可能となる見通しです。
日本語学習・情報提供アプリ
技能実習生向けにOTIT(外国人技能実習機構)が無料で日本語学習教材やアプリを公開しています。例えば、スマホアプリで日本語を学べるコンテンツや、渡航前・滞在中の留学情報を多言語で得られるサービスが整備されています。
また、実習生手帳の内容をスマホで見られる「技能実習生手帳アプリ」も提供され、最新の法令や災害情報、相談窓口などを常時確認できます。これにより、外国人技能実習生は自分のスマホで必要な情報を入手できるようになりました。
オンライン相談窓口(SOS)
技能実習生の苦情相談を受ける「SOS相談窓口」でも、2023年から電話・メールに加えZoom等のオンライン相談が可能になり、多言語対応で受け付けています。
24時間体制で相談できる仕組みは、国内にいる実習生の安全確保に役立っています。
JITCOサポート等のIT支援
実務面では、JITCOが提供する「JITCOサポート(総合支援システム)」が注目されています。
これはクラウド上で技能実習計画や在留申請書類などを作成できるシステムで、2023年7月には新分野の書式も追加されました。監理団体・企業向けにデータベース管理も可能で、書類作成の効率化が進んでいます。ただしこのシステムは賛助会員向けサービスです。
これらデジタルサービスをまとめると次のようになります。
施策・サービス | デジタル化状況 | 出典 |
在留資格申請(認定証明書・更新許可) | オンライン申請に対応(2023年開始) | 出入国在留管理庁/JITCO |
監理団体許可申請・変更届 | オンライン化は未実施(今後検討) | OTIT |
日本語教材・学習アプリ | OTITが多言語教材・学習アプリを無料公開 | OTIT |
技能実習生手帳アプリ | OTIT提供:スマホで手帳内容・法令・災害情報を確認 | OTIT |
SOS相談窓口 | 電話・メール・Zoomで対応(8言語) | 厚生労働省 |
また、データ面の変化も進んでいます。監理団体が労働局に提出する「技能実習計画認定申請」は、2023年度に約35万件認定されました。
認定計画のうち約半数は「団体監理型1号」ですが、国籍別ではベトナムが約46%(16.2万件)で最多、次いでインドネシア21%(7.5万件)と続きました。
具体的には令和5年度末時点の在留者数でベトナム人203,184人(50.2%)、インドネシア人74,387人(18.4%)、フィリピン人35,932人(8.9%)となっています。
職種別では「建設関連」「食品製造」「機械・金属」分野が上位で、それぞれ23.6%、19.6%、13.1%を占めています。
国籍 | 人数(2023年末) | 構成比 |
ベトナム | 203,184人 | 50.2% |
インドネシア | 74,387人 | 18.4% |
フィリピン | 35,932人 | 8.9% |
職種(令和5年度計画認定) | 割合 |
建設関連 | 23.6% |
食品製造 | 19.6% |
機械・金属関連 | 13.1% |
その他 | 43.7% (残り) |
4.今後進むデジタル化の展望
政府の今後の計画
今後はさらに多くの業務がオンライン化・IT化される見込みです。政府は、制度廃止後の新法(育成就労制度)施行に合わせて手続きを電子化する方針を打ち出しており、施行後3年以内にオンラインシステムを整備する計画です。
具体的には、現在も多くの時間と労力がかかる「技能実習計画認定」や「監理団体許可」の電子化が検討されています。
また、クラウドでデータを管理することで複数拠点からのアクセスや情報共有が容易になり、地方の中小企業でもモバイル端末で技能実習生情報を一元管理する時代が来るでしょう。
技能実習生への教育のデジタル化
加えて、技能実習生の履修・教育もデジタル化が進みます。
例えば、オンライン学習で日本語教育を実施したり、遠隔地からの講習受講・テストが可能になれば、受入企業が研修に要するコストや時間を大幅に削減できます。
すでに一部自治体や企業ではVR(仮想現実)を使った講習や、オンラインでのOJT計画共有など先進事例も出てきています。監理団体も、監査用書類のオンライン共有やビデオ会議による指導体制を取り入れ始めました。
5.まとめ:地域との関係構築の重要性
技能実習制度のデジタル化が進むと、手続きは確かに効率化し、企業・団体の事務負担も軽減します。
しかし実習生が地域になじみ、長く活躍してもらうためには、地域社会との人的なつながりも欠かせません。専門家は「受入れにはデメリットを上回るメリットがある」と強調し、企業だけでなく地域や監理団体も実習制度の意義を理解し協力すべきだと指摘しています。
実際、インターン実施企業の中には「地域のマラソン大会にベトナム人実習生がボランティア参加して交流した」「地域祭りで伝統衣装を着て参加した」といった事例もあります。
デジタルツールを使って情報発信しつつ、対面のコミュニケーションやイベントを通じて実習生を受け入れることで、双方の信頼関係が深まります。
自動車整備業をはじめとする中小企業にとって、技能実習生は貴重な人材資源です。
今後はオンライン申請などのIT化を積極的に活用しながら、地域の自治体や住民と協力し、「生活環境の整備」や「文化交流の機会提供」を進めることが、実習生の定着・活躍には欠かせません。デジタル化は道具であり、最終的には「人と人とのつながり」が制度の成功には重要なのです。

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