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1.はじめに
日本の外国人技能実習制度は2000年代以降、制度改正と拡大を重ねてきました。技能実習生の数は近年大きく増加し、2014年に約14.5万人だった在留技能実習生は2024年には約47.1万人に達しています。
10年で約3.8倍と、日本の労働現場において技能実習生が占める役割が拡大していることを示しています。また、技能実習生を受け入れる企業を支援・監督する「監理団体」の数も増加し、2024年時点で約3,750団体が許可を得て活動しています。
こうした状況下で、多くの受入企業は監理団体の選定に悩み、複数の監理団体に同時に加入・契約するという選択肢も現れています。
本記事では、技能実習制度の歴史的変遷を踏まえつつ、受入企業が複数の監理団体を併用することのメリットとリスクヘッジ効果について解説します。
1.監理団体の役割と制度的背景
監理団体(監理事業者)とは、外国人技能実習生を受け入れる企業(実習実施者)に対して支援・監督を行う非営利組織です。事業協同組合などの法人形態をとり、送り出し国の機関との連携や実習生受入れ手続きの代行、受入企業への指導・監査などを担います。
技能実習制度には企業単独型と団体監理型がありますが、日本で受け入れられる技能実習生の大半は後者の団体監理型であり、監理団体を通じて来日・就労しています。監理団体は入国前から帰国まで実習生と企業をサポートし、法令遵守と適正な実習環境の確保に重要な役割を果たします。
以下に監理団体の主な業務を整理します。
- 外国の送り出し機関との契約・求人手続き支援: 海外の送出機関と提携し、現地での実習生募集や選考を仲介します。国ごとの送り出し事情を踏まえ、適切な人材確保を図ります。
- 技能実習計画の作成指導: 受入企業が作成する技能実習計画について助言し、実習内容や待遇が法律に適合するよう指導します。2017年の制度改正で計画の事前認定が義務化されており、計画策定段階から監理団体が関与します。
- 入国後講習の実施: 実習生入国後に行われる法的保護講習や日本語研修などを実施または手配します。法律上、入国後1ヶ月以内に講習を行う必要があり(母国での事前講習修了者は1ヶ月未満に短縮可)、監理団体がその運営を担います。
- 定期監査・訪問指導: 実習生受入中は少なくとも月1回の訪問指導および半年に1回以上の監査を実習実施者に対して行います。書類や労務状況をチェックし、不適切な点があれば是正指導をします。これは監理団体の最重要業務で、怠ると監理団体自身の許可取消しにつながる場合があります。
- 技能実習生の生活支援・相談: 実習生からの相談受付やトラブル対応も監理団体の責務です。実習生が安全に就労・生活できるよう、母国語での相談窓口を設けたり、定期面談で悩みを聞き取るなどのサポートを行います。必要に応じて労基署や入管庁、OTIT(外国人技能実習機構)への報告・届出も代理します。
以上のように、監理団体は技能実習に関わる手続きのほぼ全てを代行・支援するA to Zの役割を担っており、適正な技能実習の実施と実習生の権利保護に不可欠な存在です。受入企業にとっては、信頼できる監理団体の選定が技能実習成功の鍵となります。
2.技能実習制度の歴史的変遷(2000年以降)
技能実習制度の前身は外国人研修制度で、1990年代から本格運用が始まりました。2000年代以降、この制度は時代のニーズに合わせて大きな転換点を迎えています。以下に主要な制度変遷を年表形式でまとめます。
年度(施行) | 主な改正・出来事 |
2009年(平成21年) | 入管法改正により在留資格「技能実習」を創設。従来は1年目「研修」、2年目以降「特定活動」と扱われ労働者とみなされなかったが、この改正で技能実習1号・2号に統一され、入国初年度から労働関係法令の適用対象となった。技能実習生の保護強化が図られた一方、「実態は労働者だが建前は研修生」といった矛盾も指摘されるようになった。 |
2017年(平成29年) | 技能実習法(正式名称:外国人技能実習適正化法)施行。技能実習制度創設から約24年で初の包括的な法律制定となり、以下の措置が導入された:①技能実習計画の認定制(受入企業側への事前審査)、②監理団体の許可制(営利企業の参入禁止・適格要件の明確化)、③外国人技能実習機構(OTIT)の新設による監督強化、④技能実習3号の創設(優良な実習実施者・監理団体に限り実習期間を3年から最長5年へ延長)。また理念上は引き続き「人材育成による国際貢献」を掲げつつ、「労働力の需給調整手段に供してはならない」旨を明記し制度の公益性を強調した。 |
2019年(平成31年) | 新たな在留資格「特定技能」が創設(特定技能1号・2号)。技能実習2号修了者には試験免除で特定技能1号への移行が認められるようになり、技能実習から特定技能へのキャリアパスが形成された。これにより、技能実習終了後も最長5年間の就労継続(特定技能1号)が可能となり、人材の長期活用や定着が図りやすくなた(※特定技能制度自体は技能実習制度とは別枠ですが、後述の新制度でさらに整合される見込み)。 |
2024年(令和6年) | 政府の有識者会議が技能実習制度の廃止と新たな「育成就労制度」創設を最終報告。同年6月に関連法改正が国会可決・成立し、技能実習制度は「発展的解消」されることになりました。新制度では目的を「国際貢献」から「人材育成と人材確保(日本の発展への貢献)」へと転換し、特定技能制度との一体運用や実習生の転籍(受入企業変更)の解禁などが盛り込まれています(詳細は後述)。施行目標は2027年前後とされ、現在移行に向けた調整が進められています。 |
上記のように、技能実習制度は建前(国際貢献)と本音(人手確保)の狭間で少しずつ改革を重ねてきた歴史があります。監理団体制度も2017年施行の技能実習法で初めて許可制となり、現在は一般監理事業(優良な団体)と特定監理事業(新規等の団体)に区分されています。
令和5年度末時点で監理団体総数3,718団体のうち約54.7%にあたる2,035団体が一般監理団体の認可を取得しており、一定の実績と遵法性を示すことで実習期間5年への延長や受入枠拡大が可能となります。
なお、新制度(育成就労制度)では監理団体を含めた枠組みの見直しが議論されていますが、当面は現行の監理団体が引き続き主軸となる見通しです。
3.複数の監理団体に同時加入するメリット
技能実習生の受入れ企業にとって、どの監理団体をパートナーにするかは極めて重要です。監理団体ごとに得意分野やサービス内容、費用体系に違いがあり、企業のニーズに合致した団体を選ぶことで実習生受入れの成果が大きく左右されます。
そのため近年、複数の監理団体を併用し、それぞれから技能実習生を受け入れて比較検討する企業も増えています。ここでは、受入企業が2つの監理団体に同時加入することによって得られる主なメリットを解説します。
(1) 多様な送り出し国・職種に対応できる
監理団体は提携する送り出し機関や実績のある国・職種に偏りがある場合があります。
例えば、ある監理団体Aはベトナムやミャンマーからの実習生に強みを持ち、別の監理団体Bはインドネシアやフィリピンとのルートを持つといったケースです。
実際、現在日本で最も多い技能実習生の出身国はベトナムで全体の約50%を占めますが、次いでインドネシア17%、フィリピン9%、中国7%など複数国にわたっています。
単一の監理団体のみを利用すると、対応可能な国籍が限定される場合がありますが、複数の監理団体を併用すればより広い国から実習生を受け入れることが可能となります。
これは、人材確保の裾野を広げるだけでなく、企業内で異なる国籍の実習生同士が日本語でコミュニケーションを取る環境を生み出す効果も期待できます(※同一国籍の実習生のみだと母国語で固まりやすい問題があります)。
また、監理団体ごとに扱える職種・作業も異なる場合があり(監理団体の許可職種による制限)、複数団体の併用で新たな職種展開が可能になるメリットもあります。例えば、建設分野に強い団体と食品加工分野に強い団体を併用すれば、それぞれの分野で専門性の高い実習生を受け入れやすくなります。
(2) 監理費用や支援内容を比較し最適化できる
監理団体ごとに設定される監理費用(組合管理費)や提供サービスの内容には差異があります。複数の監理団体から実習生を受け入れてみることで、企業は費用対効果の比較検証が可能となります。
例えば、監理費用の月額を比較するとき、併用している2団体の条件が同じであれば「自社にとって適正な監理費水準」が見えてきます。
また、日本語教育や生活指導、定期訪問時のきめ細かさなどサポート内容の質も団体により異なります。一方の団体では実習生への日本語研修が充実しているが、他方は必要最低限のみといったケースもあり得ます。
実際、現在「監理費を払っているのに十分な対応をしてくれない」「定期訪問の約束を守らない」といった不満が企業から聞かれることもあります。
こうした場合でも、複数団体を併用していれば互いの対応を客観的に評価でき、優れたサービスを提供する団体に絞り込む判断材料になります。さらに、長期にわたり複数の団体を使い分ける企業も存在し、部署や工場拠点ごとに最適な団体をあてることで総合的な管理コスト削減やサービス向上を図っている例もあります。
要するに、競争原理を利用して監理団体のサービス改善を促し、自社に最もメリットの大きい条件を引き出すことができるのです。
(3)監理品質の向上と相互チェック効果
複数の監理団体と取引することで、監理面の相乗効果も得られます。監理団体ごとに担当者の経験やノウハウが異なるため、実習生に関する問題発生時などに別の角度からのアドバイスをもらえる可能性があります。
例えば、一方の団体が実習生の生活指導やSNS利用上のトラブル対応に詳しく、他方の団体は労務管理や安全衛生の知識が豊富という場合、企業は両方の知見を活用して自社の実習生指導を充実させることができます。
また、監理団体を複数利用すると定期巡回(訪問指導)の回数も通常より増えるため、結果として実習生の状況把握が密になるという指摘もあります。
実際には月1回の訪問義務は各団体ごとに課されるため、2団体併用なら最低月2回は何らかの訪問や面談が行われる計算です。もちろん、企業側の対応工数は増えますが、その分問題の早期発見・早期対応につながる利点とも言えます。
ある企業では「監理団体Aの指摘事項を監理団体Bにも確認することで、見落としや誤解を防げた」というケースが報告されています(例えば賃金計算の誤りを一方の団体が見つけ指摘、他方の団体も再チェックして是正した例など)。
このように相互チェック機能が働く点も、複数団体利用の隠れたメリットです。監理団体自身も、他団体と併用されている企業ではサービスの質を維持向上しようと努める傾向が期待でき、結果的に全体の管理品質向上につながる可能性があります。
(4) 緊急時や将来の制度変化への柔軟な対応
2つの監理団体と契約関係を持っていることは、企業にとってリスク分散策となるだけでなく、将来的な制度変更への備えにもなります。後述するリスクヘッジの項で詳述しますが、監理団体の解散や許可取消しといった万一の事態への保険になるほか、実習生受入れを拡大したいときに新たな受入れ枠をすぐ用意できるという利点もあります。
例えば、ある監理団体では希望する国から十分な候補者が集まらない状況でも、併用中の別団体経由で必要人数を補充できたケースがあります。また、2024年以降の育成就労制度への移行期には、どの監理団体が新制度にスムーズに対応できるか様子を見る必要があります。その際、複数団体と関係を持っていれば優れた対応を見せる団体へシフトすることも容易です。
逆に一社の団体だけに依存していると、新制度での対応力に不安が生じた場合に乗り換えに時間と手間がかかります。制度が変わっても企業として実習生受入れを続けたい場合、選択肢を複線化しておくことは戦略的に有益と言えるでしょう。
以上のように、複数の監理団体を併用することは人材の多様化・サービス品質の比較検討・管理精度向上・将来への柔軟性といった多方面のメリットがあります。但し、当然ながら書類作成や窓口対応が増える負担も伴います(各団体ごとに報告書や申請書類を別途提出する必要など)。
そのため、実際に併用を検討する際はこれらコストとメリットを比較衡量し、自社にとってプラスが大きいかを判断することが重要です。
4.複数監理団体加入によるリスクヘッジ効果
前章で述べたメリットと表裏一体となるのが、リスクヘッジ(危機分散)の観点です。技能実習生受入れ事業には様々なリスクが存在しますが、複数の監理団体と契約しておくことで万一のトラブル時にも事業継続しやすくなるという利点があります。ここでは、監理団体に関する具体的なリスクと、複数加入がそれらにどう機能するかを解説します。
(1) 監理団体の許可取消・解散リスクへの備え
監理団体は法務省・厚労省管轄の許可事業であり、違反があれば許可取消し等の処分を受けます。2017年の許可制施行以降、累計で49件の監理団体許可取消し処分が発生しており、これは総数の約1%に相当します(2024年10月時点)。主な取消し理由は「実習実施者(受入企業)に対する監査・指導の不実施」など監理団体本来の責務怠慢で、全取消し事案63件中約30%(20件)を占めています。
つまり、ごく稀ながら監理団体が不適正な運営により事業継続不能となるリスクが存在します。
もし企業が唯一契約している監理団体が取消処分となった場合、その団体経由で受入れている実習生の監理を他の許可団体に引き継ぐ必要が生じ、実習計画の再認定手続きや受入れ停止など大きな混乱が避けられません。
実際にはOTITや入管当局の指導の下で他団体への転籍が斡旋されますが、受入企業・実習生双方にとって負担となります。しかし、あらかじめ別の監理団体とも契約関係にあれば、このリスクを大幅に低減できます。
具体的には、取消し処分や団体の自主解散が起きた際に、既契約のもう一方の監理団体に追加で実習生の監理を委託することが比較的容易になります(必要に応じOTITへの事業所追加届出等)。
事業の一本化先が既に確保されている安心感は大きく、実習生も新たな監理団体にゼロから慣れる必要がなくスムーズに継続できます。
また、近年は監理団体同士の統合や再編も見られるため、一つの団体に依存していると統合後の方針転換などに影響される懸念もあります。複数団体と付き合いがあれば、片方の団体で不測の事態が発生しても、もう片方との関係を軸に事業を維持できるため、企業にとって大きなリスクヘッジとなります。
(2) 行政処分(業務停止命令等)や受入停止への対応
監理団体に対する行政処分は許可取消し以外にも、業務の一部停止命令や是正指導など段階があります。
例えば、不適切な運営が指摘された監理団体は新規実習生受入れ業務の一定期間停止などの処分を受けることがあります(過去には数ヶ月間、新規受入れを禁じられた事例等)。
この場合、当該団体経由で追加の実習生を受け入れられなくなるため、企業の人員計画に影響が出ます。
しかし複数団体を利用していれば、停止期間中はもう一方の団体経由で新規受入れを行うことで人材補充の空白を埋めることが可能です。仮に監理団体自体に問題がなくても、送り出し国側の事情(送出機関の認定取消し等)で一時的に特定国からの受入れが滞るケースもあります。
そのような場合でも、他国ルートを持つ別団体があれば柔軟に切り替えることができます。さらに、企業側の事情で現在の監理団体を変更したいと思っても、単独契約で実習生が在籍していると容易ではありません。
しかし既に別団体とも契約していれば、自然なかたちでメインの団体を移行していくことができます。例えば、新規の実習生受入れは徐々にB団体経由にシフトし、A団体で在籍中の実習生の卒業を待って契約終了する、といった計画が立てやすくなります。
このように、片方の団体に問題発生時や制度変更時に、もう一方が受け皿・バックアップとなる体制は、企業が技能実習制度を安定的に活用する上で有効なリスクヘッジ策です。
(3) 不測のトラブル対応と情報入手ルートの確保
技能実習生の受入れ現場では、時に予期せぬトラブルが発生します。実習生の失踪(行方不明)や労使トラブル、重大な労災事故、パンデミックによる入国制限など、企業単独では対処が難しい事態も少なくありません。
こうした際、複数の監理団体と関係を持っていることは相談先や情報源を複数確保できていることを意味します。
例えば、ある実習生が失踪してしまった場合、通常は契約する監理団体と協力して警察への捜索願提出や入管への届出を行います。その一連の対応について、もう一方の監理団体にも相談すれば、類似ケースの経験から有益な助言を得られるかもしれません。
また、労務トラブル時に一方の団体が解決に消極的な場合でも、他方の団体の担当者が介入して状況を好転させた例もあります(例えば、実習生同士の人間関係問題で、別団体のベテラン職員が第三者調停役を買って出たケース等)。
さらに、行政機関からの通知や制度改正情報についても、監理団体によって解釈や周知タイミングが異なることがあります。複数の団体と付き合いがあれば、どちらか一方を通じて重要情報を見逃すリスクが減り、クロスチェックが可能になります。
「知らないうちにルール違反になっていた」という事態を避けられるわけです。例えば最低賃金改定や健康診断の新規定など、監理団体からの通知漏れがないかもう一方に確認するといったこともできます。このように、緊急時の対応力向上と情報リスク低減という点でも複数監理団体の併用は企業に安心感をもたらします。
(4) 監理団体側リスクへの一定の抑止効果
最後に留意すべき点として、企業が複数の監理団体と契約していること自体が各監理団体に緊張感を与え、適正運営のインセンティブとなる側面があります。監理団体にとって受入企業は顧客であり、他団体との併用企業であれば自団体のサービスが他と比較されていることを意識するでしょう。
先述のとおり、監理団体の許可取消し事例の多くは基本的な監査・指導業務の怠慢によるものです。企業側が複数の団体と付き合い、「きちんと指導してくれる監理団体を選ぶ」という姿勢を示すことは、監理団体側にも良い緊張感を促します。
「他の組合では毎月きちんと面談してくれる」と企業から聞けば、自社でも改善しようとするでしょう。ひいては失踪者の予防などにも寄与する可能性があります。実際、技能実習生の失踪者数は技能実習制度全体の約1%台で推移していますが、企業・監理団体の努力次第でさらに減少させる余地があります。複数団体併用は、そうしたポジティブな競争環境を作り出す点でも間接的なメリットがあると言えます。
以上のように、監理団体を複数利用することは企業にとって「不測の事態への備え」と「平時からの抑止効果」をもたらします。ただし、リスクヘッジのための複数契約も乱用は禁物であり、各監理団体との信頼関係構築が大前提となります。
併用にあたってはそれぞれの監理団体に対し契約の意図や位置づけを透明に伝え、誠実に付き合うことが肝要です。その上で、万一の際には企業・実習生・監理団体が協力しあって被害を最小化できる体制を整えておくとよいでしょう。
4. 今後の監理団体制度と技能実習制度の展望
2024年の育成就労制度の成立により、技能実習制度と監理団体制度は今後数年で大きな転換期を迎える見込みです。本章では、新制度の概要と監理団体制度への影響、企業が注視すべきポイントについて解説します。
(1) 育成就労制度への移行とその狙い
政府は2024年3月、技能実習制度を発展的に解消し新たな「育成就労制度」を創設する方針を閣議決定しました。
6月には関連法が成立し、現行制度から新制度への移行準備が進んでいます。育成就労制度の最大の特徴は、制度目的を転換した点にあります。
従来の技能実習制度は「途上国への技能移転による国際貢献」が建前でしたが、新制度では「日本の人材不足解消のための人材育成と確保」が主目的と明確化されました。これは制度の本音を前面に出した形であり、より実態に即した受入れが可能になると期待されています。
また、育成就労制度は特定技能制度との連携を前提としており、在留期間や移行要件が再設計されています。現時点の案では、育成就労は最長3年間の在留で、その後特定技能1号への円滑な移行を図る枠組みとなる予定です。
特定技能1号に移行する際も試験等による一定の技能・日本語水準の証明が求められますが、技能実習からの移行よりスムーズになる見込みです。さらに、技能実習では原則禁止されていた企業間の転籍(転職)が一定条件下で可能となる方向です。
例えば労働条件に重大な問題がある場合などに実習生が受入先を変えやすくし、実習生保護を強化します。
このように、新制度は技能実習・特定技能の良い部分を組み合わせ、悪い部分を是正することが狙いであり、2027年前後の施行に向けて詳細設計が行われています。
(2) 監理団体制度の行方と予想される変化
育成就労制度下でも、当初は現行の監理団体が「育成管理団体(仮称)」として役割を果たす見通しです。現在の有識者報告では、民間の職業紹介事業者等の直接関与は当面認めないとされています。
これは、いきなり完全に市場原理に委ねると実習生の人権保護等に不安が残るため、まずは既存の監理団体を活用して移行しようという考えです。
そのため、受入れスキーム自体は「団体管理型」が維持され、送り出し機関との連携も引き続き必要となるでしょう。
ただし、監理団体に求められる要件や業務内容には変化が予想されます。育成就労制度では、日本語能力や技能試験の合格が特定技能への移行条件となるため、監理団体にはより高度な研修提供や試験支援が期待されます。
具体的には、これまで以上に日本語教育体制を整備したり、技能検定対策講座を実施するといった役割が増える可能性があります。
また、転籍が認められることで、監理団体は複数の受入企業間の調整役を担う場面も出てくるでしょう。さらに、新制度では優良な団体・企業の範囲拡大が検討されており、現在「一般監理団体」とされる優良団体は引き続き厚遇される一方、要件を満たせない団体は事業継続が難しくなるかもしれません。
政府は「悪質なブローカー排除」の観点から制度管理を厳格化する方針であり、監理団体にも一層のコンプライアンスとサービス品質向上が求められます。
つまり、監理団体間の淘汰と再編が進む可能性が高いと言えます。受入企業は、自社のパートナーである監理団体が新制度に適応できるか見極める必要があるでしょう。
その点、既に複数の監理団体と付き合いがある企業は有利です。新制度開始後の運用状況を比較し、対応が優れている団体とより強固に提携するといった戦略もとれます。
(3) 企業向け実用的アドバイス:移行期の対応
今後数年間は技能実習制度から育成就労制度への過渡期となります。この間、企業に求められるのは最新情報の収集と柔軟な対応です。具体的なアドバイスとしては、まず監理団体や行政当局からの通知を注意深く確認することが挙げられます。
新制度に関するガイドラインや講習会が開催された際には、積極的に参加して知見を深めてください。また、自社が契約する監理団体にも、新制度への準備状況や見解をヒアリングしておくと良いでしょう。
複数団体と契約している場合は、それぞれの対応方針を比較することで見えてくるものがあります。例えば、日本語教育カリキュラムを刷新する団体もあれば、人材定着支援策を強化する団体もあるかもしれません。
企業側も、新制度では実習生を戦力化し長期雇用につなげる視点が重要になるため、監理団体任せにせず主体的な受入れ姿勢を持つことが望まれます。幸い、育成就労制度では特定技能へのシームレスな移行が掲げられており、意欲ある実習生を長く自社に留められるチャンスが広がります。
これは企業にとって大きなメリットであり、その実現には監理団体との協働が欠かせません。複数の監理団体を活用している企業は、そのネットワークを最大限活かし、新制度下でも安定して外国人材を確保・育成する体制を構築していくと良いでしょう。
5.おわりに(まとめ)
技能実習制度は時代と共に変遷し、2020年代半ばに転機を迎えようとしています。本記事では、制度の歴史や監理団体の役割を概観し、企業が2つの監理団体に同時加入・契約するメリットとリスク対策について詳述しました。
複数の監理団体併用は、適切に活用すれば多様な人材確保、サービス品質の比較改善、リスク分散といった多大な利点をもたらします。
一方で、その効果を引き出すには企業自身が能動的に情報を収集し、各監理団体との信頼関係を構築・維持することが重要です。監理団体側も企業の期待に応えるべく努力することで、結果的に技能実習制度全体の適正化にもつながるでしょう。
年度 | 在留技能実習生数(人) | 失踪者数(人) | 失踪率(%) |
2013年末 | 136,608 | 3,566 | 2.6 |
2014年末 | 145,426 | 4,847 | 3.3 |
2015年末 | 168,296 | 5,803 | 3.4 |
2016年末 | 211,108 | 5,058 | 2.4 |
2017年末 | 257,788 | 7,089 | 2.7 |
2018年末 | 308,489 | 9,052 | 2.9 |
2019年末 | 383,978 | 8,796 | 2.3 |
2020年末 | 402,356 | 5,885 | 1.5 |
2021年末 | 351,788 | 7,167 | 2.0 |
表:技能実習生数と失踪者数の推移(2013~2021年)
上表のとおり、技能実習生数は2010年代後半にかけて急増しましたが、失踪者数も増加傾向で推移し2018年には9,052人に達しました。
ただしその後は割合ベースで1%台に下がっており、制度改正の効果やコロナ禍の影響も考えられます。新制度ではさらに失踪防止策が講じられる予定ですが、企業と監理団体が協力して待遇改善や支援充実に努めることが不可欠です。
最後に、技能実習制度から育成就労制度への移行期において、受入企業は変化を恐れるよりもチャンスと捉え、積極的に制度を活用するマインドが求められます。
複数監理団体のメリットを享受しつつ、新しい制度の下でも外国人材の力を十分に発揮させることができれば、企業の人手不足解消と事業発展に大きく寄与するでしょう。この記事が、読者企業の実践的な検討に役立ち、より良い外国人技能実習・育成就労の受入れにつながれば幸いです。

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