外国人技能実習生を受け入れる日本の中小企業は年々増えています。人手不足を補う貴重な戦力として期待される一方で、現場でよく耳にするのが「言葉が通じない」という悩みです。特に作業内容や安全面の指示がうまく伝わらないと、大きなトラブルにつながることもあります。
本記事では、技能実習生の日本語力に関する受入要件と実際のレベル、その課題や対策について、やさしい日本語でわかりやすく解説します。これから技能実習生を迎える企業の管理職の方にとって、実践的な内容となっています。
ー 目次 ー
1.日本語能力試験(JLPT)と受入要件
➀日本語能力試験(JLPT)の概要
技能実習生の日本語力を示す代表的な指標が、「日本語能力試験(JLPT)」です。JLPTはN1〜N5の5段階に分かれており、N1が最も難しく、N5が最も易しいレベルです。
レベル | 内容の目安 |
---|---|
N1 | 新聞や論文も理解できる上級者レベル |
N2 | 日常会話はもちろん、業務上の指示も理解できる |
N3 | 基本的な会話はできるが、専門用語には不安あり |
N4 | 簡単な日常会話ができる程度 |
N5 | あいさつや自己紹介など、非常に基礎的な会話のみ可能 |
➁技能実習に必要な要件
第1号技能実習(1年目)
入国前に日本語能力試験N4程度の知識を持っていることが推奨されていますが、法的な必須条件ではありません。ただし、送り出し機関で最低160時間の日本語講習を受けることが義務づけられています(出典:法務省・外国人技能実習制度運用要領)。
第2号技能実習(2〜3年目)
第1号技能実習を終えて第2号に進むには、技能評価試験(基礎級)に合格する必要があります。この試験には日本語での筆記と実技が含まれており、業務に必要な日本語を理解できることが前提です。
原則として、日本語能力試験(JLPT)のN3レベル以上の日本語力が求められています。ただし、N3に合格していなくても、「事業所での日本語学習を継続する計画」がある場合には、第2号への移行が認められるケースもあります。
2.技能実習生の日本語レベルの実態
実際には、多くの技能実習生がN5〜N4程度の日本語力で来日しています。入国直後は「こんにちは」「ありがとう」といった基本的な挨拶はできても、「〇〇を片づけておいて」「この書類を提出して」などの業務指示を理解するのに苦労するケースが多いです。
また、送り出し国や教育機関の質によっても差が出ます。例えばベトナムの送り出し機関では比較的日本語教育に力を入れている一方で、ミャンマーやインドネシアでは初級会話のみで来日する実習生も多く見られます。
3.日本語を学習する時期と講習時間
技能実習制度では、実習生は日本に来る前に160時間以上の講習を受ける必要があります。内訳としては、日本語だけでなく、生活マナーや交通ルール、日本の文化についての内容も含まれます。
入国後には、監理団体や受け入れ企業によって30時間以上の講習を行うことが義務づけられていますが、こちらも内容や質にばらつきがあります。特に会話練習よりも座学中心の教育が多く、「聞いて理解する」力が弱い傾向があります。
4.技能実習生が特に苦労する日本語の特徴
- 敬語や謙譲語:職場では「していただけますか」「お持ちください」などの表現が使われますが、これは教科書にはあまり出てこないため、理解が難しいです。
- 省略語・略語:「エアコン」「リモコン」などの略語、「A作業→B作業」などの業務特有の表現にも対応しにくいです。
- 方言やイントネーション:特に地方の企業では方言やなまりが混ざると、聞き取りが困難になります。
- 同音異義語や漢字:「切る(電源を切る/ハサミで切る)」など、文脈によって意味が異なる単語も多くあります。
5.英語は通じるか
「英語なら通じるのでは?」と考える企業もありますが、国によって事情は大きく異なります。
例えば、フィリピンの技能実習生は教育課程で英語を日常的に使っているため、日常会話レベルの英語が話せる人が多いです。このため、緊急時のサポートや翻訳アプリの利用時などに、英語が役立つ場面もあります。
一方で、ベトナム、ミャンマー、インドネシアなどの国では、英語教育があっても会話力が高くないことが多く、日本語のほうが実務上は通じやすい傾向があります。また、受け入れ側の日本人スタッフも英語が得意でない場合が多いため、英語に頼りすぎるのはリスクともいえます。
したがって、「日本語を基本としながらも、状況によっては英語も補助的に活用する」という姿勢が現実的です。
6.言葉の壁が引き起こす実際のトラブル事例5選
技能実習生とのコミュニケーション不足や日本語理解の不十分さが原因で、現場でのトラブルが発生することがあります。以下に、実際に報告された事例を5つご紹介します。
事例1:作業指示の誤解による業務ミス
製造業の現場で、技能実習生が「この部品を右側に置いてください」という指示を「右側の部品を置いてください」と誤解し、異なる部品を配置してしまいました。このミスにより、ライン全体の作業が一時停止する事態となりました。
出典:GHRラボ「技能実習生のトラブル事例と対策」
事例2:就業規則の理解不足による遅刻
ある企業で、技能実習生が就業時間を誤解し、定時より30分遅れて出勤することが続きました。原因は、就業規則が日本語のみで提供されており、実習生が内容を十分に理解できていなかったことでした。その後、母国語での就業規則を用意し、問題は解消されました。
出典:かなえる(実習生相談内容解決事例)
事例3:医療機関での通訳不在による診療ミス
技能実習生が体調不良で病院を受診した際、通訳が同伴しておらず、症状を正確に伝えられなかったため、誤った診断が下される事態が発生しました。言語の壁が医療現場でのトラブルを引き起こす一例です。
出典:神奈川県「外国人患者への対応事例集」
事例4:安全衛生教育の理解不足によるヒヤリ・ハット
建設現場で、技能実習生が安全帯の正しい装着方法を理解しておらず、高所作業中にバランスを崩すヒヤリ・ハット事例が発生しました。安全教育が日本語のみで行われていたため、実習生が内容を十分に理解できていなかったことが原因でした。
出典:OTIT「技能実習生 安全衛生対策マニュアル」
事例5:日本語理解不足によるストレスと失踪
技能実習生が日本語の理解不足から職場でのコミュニケーションに支障をきたし、ストレスを感じた結果、実習を継続できずに途中帰国や失踪する事例が報告されています。言葉が通じないストレスは技能実習生だけでなく、教える立場の日本人にも影響があります。
出典:海事代理士法人京都事務所「技能実習生によくあるトラブルとは?」
7.技能実習生が日本語で働きやすくする工夫6選
- やさしい日本語を使う
「〇〇してください」など、短く明確な指示を意識する。 - 指差し・写真・イラストを活用する
視覚的に伝えることで、理解度が向上。 - 翻訳アプリを活用する
Google翻訳、VoiceTra、Papagoなどを活用。音声入力やカメラ翻訳も便利。 - 定型文をマニュアル化する
よく使う言葉をまとめた日本語マニュアルを作成。 - 日本語学習の支援制度を用意する
Eラーニングや日本語講師の派遣など。 - フィードバックと声かけを丁寧に行う
「わからなかったら聞いてね」と声をかける。
まとめ
技能実習生の多くは、日本語に不安を抱えながら来日しています。制度上は最低限の日本語教育を受けているとはいえ、現場では通じにくいこともしばしばです。
だからこそ、受け入れ側の企業が「やさしい日本語」や視覚的なサポート、翻訳アプリなどを取り入れることで、ミスやトラブルを減らすことができます。外国人実習生と良い関係を築き、長く安心して働いてもらうためにも、日本語に関する理解と配慮は欠かせません。

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