技能実習生は、日本の中小企業などで実務を通じて技術を学ぶ制度で、多くの外国人が働いています。彼らも働く以上、当然ながら病気やケガのリスクがあります。実は、技能実習生も日本人労働者と同様に「労災保険」の対象となります。
しかし、実際に病気やケガが発生したとき、言葉や文化の違いから適切な対応ができず、実習生本人も企業側も困ってしまうケースが少なくありません。この記事では、技能実習生が病気やケガをしたときの対応や、利用できる保険制度について、やさしく解説します。
1.技能実習生の労災件数は多い?
厚生労働省が公表した令和5年(2023年)のデータによると、技能実習生の労働災害発生率(死傷年千人率)は 4.10 であり、これは全労働者平均の 2.36 を大きく上回っています。
労働者区分 | 死傷年千人率(1,000人あたりの死傷者数) |
---|---|
技能実習生 | 4.10 |
全労働者平均 | 2.36 |
この統計から、技能実習生は日本人を含む全労働者と比較して、約1.7倍の労働災害リスクにさらされていることがわかります。
特に、製造業や建設業といった業種では、重機の操作や高所作業など、危険を伴う作業が多く、技能実習生が従事することが多いため、労働災害の発生率が高くなっています。
このような状況を受けて、厚生労働省は「第14次労働災害防止計画」において、2027年までに外国人労働者の死傷年千人率を全労働者平均以下にすることを目標としています。
【出典】厚生労働省「令和5年 外国人労働者の労働災害発生状況」
2.技能実習生が病気やケガをしたときの対応
➀ すぐに病院へ同行
実習生が病気やケガをした場合は、できるだけ早く医療機関を受診させることが大切です。多くの実習生は日本の医療制度に詳しくなく、自分の症状を正確に説明することも難しいため、可能な限り日本人スタッフが同行しましょう。
- 病院の場所がわからない
- 日本語が通じない
- 健康保険証の使い方がわからない
- 診察費用の目安がつかない
これらの理由から、本人だけで対応させると受診が遅れ、症状が悪化する恐れがあります。
② 療養給付と休業補償給付の手続き
労働災害が原因の場合、労災保険から「療養給付(治療費の補償)」や「休業補償給付(働けない間の給与の一部補償)」を受け取ることができます。これらは日本人と同様に、技能実習生にも適用されます。
- 労災発生の報告(労働基準監督署へ)
- 労災指定病院での診察
- 所定の申請書類を提出(様式第5号など)
【出典】厚生労働省「労災保険制度の概要」
③ 技能実習の再開手続き
長期療養を終えたあと、再び実習を始める場合は、監理団体や入管への届け出が必要です。実習計画の見直しや再開に向けたサポートも求められるため、管理者はJITCOや登録支援機関の助けを借りながら対応しましょう。
3.技能実習生の状況に合ったケア
➀ お金を持っていない
実習生の中には、手持ちの現金が少なく、病院代が払えないため受診をためらうケースがあります。会社側が一時的に立て替えるなどの配慮が必要です。後日、労災保険などで精算できることもあります。
② 病院に行くのを我慢してしまう
治療費が高額になると誤解していたり、保険の仕組みをよく知らなかったりするため、症状を我慢してしまう実習生も少なくありません。病気やケガを軽く見て、迷惑をかけたくないと思っている場合もあります。
4.労災保険とは(日本人と同じ)
労災保険(正式名称:労働者災害補償保険)は、仕事中や通勤途中に起きたケガ・病気・障害・死亡に対して、必要な治療費や生活費を補償してくれる国の制度です。会社が加入し、保険料はすべて会社が負担します。働く人自身が保険料を払うことはありません。
たとえば、工場で作業中にケガをしたり、通勤中に交通事故にあった場合、その治療費は病院に行っても本人が払わず、労災保険が直接支払ってくれます。また、治療のために仕事を休んだ場合も、給料の約8割が支給されます(休業補償給付)。
さらに、後遺障害が残ったときや死亡したときにも、家族への補償があります。これらはすべて日本人だけでなく、技能実習生にも平等に適用されます。
技能実習生を受け入れている企業は、必ずこの制度を理解し、実習生にもわかりやすく説明しておくことが重要です。
【出典】厚生労働省「労災保険制度について」
5.技能実習生が加入できる保険
➀ JITCO保険
JITCO(公益財団法人 国際人材協力機構)が推進する技能実習制度では、技能実習生向けの「医療補償制度(JITCO保険)」があります。これは、労災以外の私病(風邪・虫歯など)に対応するもので、任意加入ですが、多くの監理団体が導入を推奨しています。
この保険は、自己負担分の医療費を補填するもので、実習生が安心して病院に行けるようになる重要な制度です。
② その他(国民健康保険など)
技能実習生は在留期間が1年以上であれば、「国民健康保険」にも加入する義務があります。これにより、一般的な病気やケガの医療費が3割負担となります。こちらは法律に基づく必須加入ですので、企業側で加入漏れがないように注意しましょう。
6.労災隠しは絶対ダメ!
一部の企業では、労災保険の手続きを面倒と感じて、労災事故を「私病」として処理してしまう、いわゆる「労災隠し」が問題となっています。これは労働基準法違反であり、監督署からの是正指導や罰則の対象になります。
労災を隠さず、正しく処理することは、企業の信頼を守るうえでも非常に重要です。
まとめ
技能実習生が病気やケガをしたとき、日本人と同じように労災保険の対象となります。しかし、実習生自身が医療制度をよく知らなかったり、経済的な不安を抱えていたりするため、企業側がしっかりと対応することが求められます。
- ケガや病気の際は、すぐに病院へ同行し、診療を受けさせる
- 労災手続きを正しく行い、再開のための支援も忘れずに
- JITCO保険や国民健康保険の加入を確認する
- 実習生の立場や気持ちに寄り添う姿勢を持つ
この記事を通じて、技能実習生の安心・安全な職場環境づくりに役立てていただければ幸いです。

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